制作者は楽しくない「わりきりニュース」 ── 水島宏明氏に聞く(3)
「国民の知る権利」に奉仕するはずの報道機関が、有権者が政党や候補者についての情報をもっとも必要とする選挙期間中に「わりきった」形の「つまらない」報道しか流せないのだとしたら、有権者が判断材料にすべき情報がテレビからは得られないことになります。 本当はもっと有権者が投票の材料にできるようなこんな情報、こんなニュースを、と工夫したり考えたりして出していく、ということがテレビは求められます。 でも「わりきり報道」だとそういった工夫をしなくなってしまいます。 そもそもテレビニュースでは現在のように小政党が乱立して政党数が多い場合、政党名、候補者名や主な訴えを紹介するだけでかなりの秒数を食ってしまいます。わりきりニュースはそれだけでとどまってしまう場合が多く、政策の違いやそれぞれの争点のポイントについて解説することができません。そうしたことができなくなってしまいます。 選挙の公正公平については、テレビ局だけでなく新聞やネットについても求められています。『公職選挙法』も適用されるからですが、テレビの場合はさらに『放送法』という、そもそもテレビ局がテレビのビジネスをするにあたって必要な免許を総務省から与えられるという背景があり、新聞や雑誌に比べても自由にいかない事情があります。 とはいっても、テレビ報道が規制でがちがちで自由や裁量がないのかといえば、そうではありません。 政府に対してもふだんから良いことは良いと言い、悪いことは悪と言う「是々非々」で臨んでいるというのが現場の実感ですし、多くの場合にはそうだと感じます。 時には大胆な政府批判を展開することもあります。たとえば、原発の再稼働についても、1つの番組が再稼働について、事故の際の避難計画などの不備を特集したとしても、別の番組で国全体のエネルギー政策のバランスとして必要だと強調する声を入れるなど、放送全体で総合的にバランスが取れればいい、一つひとつの番組は、様々な立ち場から見たある意味では一面的なものがあっても、全体的に多角的に伝えればいい、として、かなり伸び伸びした雰囲気で仕事を行っています。 ただし、こと選挙に関する限り、テレビはかなり束縛されたメディアだと言うことができます。それだけに選挙に関して外部から「公平中立、公正」でないと疑われることに戦々恐々としているという実情があります。 ---------------- 水島宏明(みずしま ひろあき) 法政大学教授・元日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクター。1957年生まれ。東大卒。札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー 『母さんが死んだ』や准看護婦制度の問題点を問う『天使の矛盾』を制作。ロンドン、ベルリン特派員を歴任。日本テレビで「NNNドキュメント」ディレクターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。『ネットカフェ難民』の名づけ親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科 学大臣賞受賞。2012年から法政大学社会学部教授。近著に『内側から見たテレビ』(朝日新書)。