認知症になっても(9月12日)
「ヘタウマ」な画風や気取らない人柄が愛される。漫画家の蛭子能収[えびすよしかず]さんは72歳だった4年前、自身の認知症を公表した。目の前にいない人が見えたり、物忘れが激しくなったり…▼それでも漫画の連載は続け、症状や心境を積極的に発信している。支える妻に感謝しつつ、マイペースな生き方も変わらない。〈認知症になっても稼ぎたい〉〈好きなことをやり通して明るく過ごす〉。著書の言葉に、病気になっても前向きに生きるヒントが浮かぶ▼いわき市の福祉事業所は、3年前から認知症の高齢者に働く場を提供している。デイサービス利用者が店舗で弁当の調理を手伝い、先月から出張販売で接客も担う。客に喜ばれ、やりがいが生まれているという。謝礼を受け取り、また頑張ろうと、表情は明るくなる▼2060年に高齢者の5・6人に1人が認知症になると、政府は推計する。認知症基本法は希望を持てる共生社会を目指している。共生に多様性を付加した社会は、もっと優しい。蛭子さんのように、認知症を患う人たちに生きがいがあってこその多様化社会だろう。ヘタウマの語意は、一見ヘタなようで実はウマい。そんな才を宿すお年寄りはきっといる。<2024・9・12>