およそ1億円でもリーズナブルと思われる理由は? ラリーで超有名なアウディ「クワトロS1 E2」にはWRCチャンピオンたちのサインがたくさん!
レース・オブ・チャンピオンズのスーパースターにはなったものの……
その後のシャシーナンバー018は、1989年と1990年の「レース・オブ・チャンピオンズ」に供用され、1991年以降は現オーナーでもある同イベントの共同設立者に買収された。のちに、さまざまな分野や国籍の世界最高のレジェンド級ドライバーたちがこぞって参加することになるこのイベントは、エンターテインメント志向のコンセプトが受け、30年以上にわたりモータースポーツファンを魅了してきた。 このアウディ スポーツクワトロS1 E2は、ニュルブルクリンクで開催された1989年版、およびバルセロナで開催された1990年版レース・オブ・チャンピオンズで注目を集め、このイベントのアイコン的存在となる。 ニュルブルクリンクおよびバルセロナでシャシーナンバー018をドライブしたのは、ビョルン・ヴァルデガルドにヴァルター・ロール、アリ・バタネン、ハンヌ・ミッコラ、スティグ・ブロムクヴィスト、ティモ・サロネン、ユハ・カンクネン、ミキ・ビアジオン、そしてカルロス・サインツ。つまり1979年から1990年に至るWRCチャンピオンたちが、この個体のステアリングを握ったことになる。また、複雑怪奇な形状のボンネットには、以前は車両の側面にサインしていたカンクネンを除いて、そのリストに載っているすべての著名人のサインが描き込まれている。 この重要なクワトロは、間違いなく「レース・オブ・チャンピオンズ」に登場する中でもっとも有名なマシンとなり、その後もバンコク、北京、マイアミ、バルバドスなど、13都市ものイベントで披露。現オーナーのもとでは、元「アウディ・スポーツ」の伝説的なエンジニアであるカール・ハーゼンビルヒャーの協力を受けつつ保管されているという。 現状のシャシーナンバー018は、カラーリングの変更を除いて1989年と1990年にヴァルター・ロール、スティグ・ブロムクヴィスト、ハンヌ・ミッコラ、アリ・バタネンなどがドライブしたのと同じ仕様のまま、過去30年間にわたって保存されてきたが、しばらく走行していなかったことから、とくに機関部にはレストアの必要があるようだ。 また、2021年にハーゼンビルヒャーの手によってフルリビルドを受けた鋳鉄製の交換用エンジンブロックなど、生来のグループB仕様からいくつかの変更を受けていること、もとより高度に複雑なワークス・ラリーマシンであるため、落札したバイヤーはRMサザビーズの自動車スペシャリストやラリーカーの専門家と相談しながら、正しくレストアすることが推奨されていた。 くわえて、レストアに際してRMサザビーズに協力を求めるなら、このマシンをこれまでどおり「レース・オブ・チャンピオンズ」仕様とするか、ワークススタンダードのグループB仕様に戻すかのどちらかを選べるとのことであった。 ところで、同じRMサザビーズ欧州本社が2022年に開催した「LONDON」オークションでは、同じく元ワークスカーであるスポーツクワトロS1 E2が出品。175万ポンド~225万ポンドというかなり強気のエスティメート(推定落札価格)を設定し、実際の競売では180万5000英ポンド、日本円に換算すれば約3億円で落札される大商いとなった。 しかし、今回の「MONACO 2024」オークションに出品されたシャシーナンバー018は、それから比べるとかなり控えめな50万ユーロ~70万ユーロのエスティメート(推定落札価格)。実際の競売でも63万5000ユーロ、日本円に換算すると約1億750万円という、かなり安値での落札となった。 この違いは、この種のクルマのマーケットが沈静化しているからなのか……? それとも「要レストア」のメカニカルコンディションが影響しているからなのか……? ほかのグループBワークスカーの市場動静も眺めつつ、今後の成り行きに注目したいところである。
武田公実(TAKEDA Hiromi)