オタ活のために実家の店を畳んで始めた野方にある古着屋「吊り橋ピュン」
◇昭和レトロブームが追い風になってくれた ――吊り橋ピュンを始めたのは、いつ頃から? ヒグチ:2020年の4月にオープンしました。だから、ほぼコロナ禍でのスタート。すぐ終息するだろうと思っていましたが、蓋を開けたら数年続いてしまって。だから、すぐにタイには買い付けに行けなくなったんです。なので、自分の私物のヴィンテージバンドTシャツやタレントものでなんとかする感じ。日本でも仕入れ先を見つけたりしました。 ――大変な状況が続いたと思いますが、そこからお店の認知度はどのように上がっていったんですか? ヒグチ:最初の頃は全然ですよ。友達がぷらっと来てくれたり、酔っ払いの人が覗いてくれたり。1年目は365日オープンしてて、深夜12時くらいまでやっていたんですよ。この辺りは飲み屋も多いので、酔っ払った人が入ってくるので、そういう人に売りつけたり(笑)。そういう感じでなんとかやっていました。 ――ちなみに、なぜ野方を選んだのでしょう? ヒグチ:野方は内見に来たときに初めて降りた駅なんですよ。ネットで物件を調べていたら、やたら安い場所があって。建物もボロいし、インパクトのあるお店も多いし、すげえところだなと思いました。 街を散策していると、60歳くらいのおっちゃんが「人間はクソして死ぬだけだ!」と叫んでいて。そのおっちゃんに「そんなことないですよ!」と話しかけたら、「兄ちゃんいいね!」ってマトンカレーを奢ってくれたんですよ。おもしろい街だなと思ってココに決めました。 ――すごいエピソードですね(笑)。 ヒグチ:のちのち、そのおっちゃんについて知り合いに聞いていたら“野方のジョーカー”と呼ばれる迷惑おじさんだったみたいです(笑)。 ――そこからお店の認知度が上がっていくキッカケはあったんですか? ヒグチ:動画メディアのMcGuffinに出演したことが大きいですね。公開された次の日から人が来まくって、あれには驚きました。商品がごっそりなくなって、怖くなっちゃいました。あとは、昭和レトロブームが到来したのも大きいかもしれないですね。たまたま時代の流れにフィットしたのかなと思います。 〇【野方のサブカルチャーに特化した古着屋 / 吊り橋ピュン】ヴィンテージからブート、昭和平成のアイドルやタレント、企業モノ マニアックなセレクトで異彩を放つ穴場的お店――思い入れのあるアイテムも多数あると思いますが、印象に残っているアイテムを教えてください。 ヒグチ:個人的に気に入ったものとかはたくさんあるんですけど、例えば、いしだ壱成さんがタイ航空のCMに出てたときの、背中に”タイラヴユー“と書いてあるTシャツはデザインがめちゃくちゃ良くて! トゥクトゥクの後ろにいしだ壱成さんが乗っているプリントだったんですけど、それは売れてほしくなかったですね(笑)。 あとは、布袋寅泰さんがピエロの格好をしているTシャツ。SPACE COWBOY TOURのTシャツだったんですが、それもめちゃくちゃカッコよくて。売れてほしくなくて値段を高めにつけていたんですけど、売れてしまい有難いけど寂しい気持ちでした。 ――その感覚ってなんだか不思議ですね。本当なら売れたほうが利益になるはずなのに。 ヒグチ:そうですよね(笑)。変だと思うんですけど、不思議な感覚というか。売れてほしくないな、というアイテムはちょっと高めに値を付けてしまっていると思います。自分で買い付けしてきて、商品写真を撮ったりして、なんだか所有した感覚になっているのかもしれないですね。 ――吊り橋ピュンを開業されて印象的な思い出はありますか? ヒグチ:忘れやすい性分ですからね……。定期的にイベントとかもやっているんですけど、うちの店の前でアイドルの子が歌ったりとか(笑)。まあ、そういうのをやっちゃいけない場所ではあるので、騒音の注意に警察とかもよく来ちゃったり(笑)。 でも、有名な方もよく来てくれたりするんですよね。自分がそういうのに疎いから、あとか友人に教えてもらったりして気づくことが多いんですけど、先日は有名なラッパーの方がご来店してくれましたね。あとは、俳優さんもちらほらと。 ――最後に、好きなことを仕事にするとはヒグチさんにとってどんなことですか? ヒグチ:好きなものに囲まれて仕事してますが、これまで自分が好きで得た知識が本当に役に立っているんですよ。だから、人生に無駄なことはないんじゃないかなと。当時の自分を支えてくれていた服や漫画やテレビの知識が役立っているので、不思議な感覚。だから、本当に無駄なことはないんですよね。 (取材:笹谷 淳介)
NewsCrunch編集部