米政府、ウクライナに対人地雷を供給へ 「持続性のない」機種で民間人へのリスク軽減と
アメリカのジョー・バイデン大統領は、ウクライナに対人地雷を供与することに同意した。ウクライナ東部でここ数か月、着実に前進しているロシア軍の動きを鈍らせる試みとみられる。ロイド・オースティン米国防長官が20日、明らかにした。 オースティン長官は、ロシアが戦術を変更し、「機械化戦力」ではなくまず兵士らを投入しているため、こうした決定を下したと述べた。 対人地雷の提供は、退任間近のバイデン氏が、来年1月20日にドナルド・トランプ次期大統領が就任する前に、ウクライナの戦闘努力を強化しようとする動きの一環。 東部の長い前線でロシア軍の進撃を食い止めようとするウクライナ軍にとって、地雷は不可欠だ。 ロシアは現在、3~5人程度の小規模な兵士グループを徒歩やオートバイでウクライナ軍の陣地の後方に送り込むといった戦略を取っている。こうした兵士たちは、しばしば殺されたり捕虜になったりしている。 しかしウクライナのアナリストによると、チャシヴ・ヤールやクラホヴェなどの包囲された町では、こうした小隊が20分ごとに、数時間にわたって投入されることがあり、ウクライナ軍にとって問題となっている。 オースティン長官は、アメリカは地雷の使用目的についてウクライナに確証を求めたと述べた。 また、供給する地雷はウクライナ領内で使用されるが、人口密集地帯からは離れた場所で使用されることを期待しているとした。 2022年2月のウクライナへの全面侵攻開始以来、ロシアは自らの陣地を守り、ウクライナ軍の進行を遅らせるために地雷を大量に配備してきた。 しかし、このような兵器の使用は民間人に危険が及ぶとして、国際的にも反対意見が多くあり、バイデン政権による承認を妨げていた。 戦闘の多くは、ドンバス地方の開けた農地の間にある森林地帯で発生している。 すでに多くの民間人が避難している中、ウクライナは「持続性のない」地雷の戦術的な使用が民間人へのリスクを最小限に抑え、ロシアの進撃を食い止めるために絶対に不可欠だと主張している。 アメリカの「持続性のない」地雷は、ロシアの地雷とは異なり、あらかじめ設定された期間(4時間から2週間)が経過すると作動しなくなる。電気で起爆する仕組みのため、バッテリーが切れると爆発することはないという。 アメリカ政府はすでに対戦車地雷をウクライナに提供しているが、迅速に設置できる対人地雷は、地上部隊の進軍を鈍らせるためのものだ。 ロシアとアメリカは、対人地雷の使用や移送を禁止する「地雷問題・対人地雷禁止条約(オタワ条約)」の加盟国ではないが、ウクライナは加盟している。しかし、ロシアが本格的な侵攻を開始して以来、ウクライナ領土の20%以上が地雷で汚染されたと推定されている。 ■人権擁護団体などは批判 アメリカの決定について、人道支援団体からは批判の声が上がっている。 ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)のトップ、メアリー・ウェアハム氏はBBCのインタビューで、この決定は対人地雷の根絶に取り組む人々にとって「衝撃的で壊滅的な展開」だと述べた。 「オタワ条約が定める枠組みの下で、過去25年間で大きな進展があった。だからこそ、アメリカがこのような措置を取るなど信じられない」 国際地雷禁止キャンペーン(ICBL)もウェアハム氏の姿勢に呼応し、アメリカの決定を「最も強い言葉で」非難した。 ICBLのタマル・ガベルニック・ディレクターは声明で、「この恐ろしい無差別兵器は、市民の生活と生計に壊滅的な影響を与えるとして、1997年のオタワ条約で禁止されている」と指摘。同条約の「締約国であるウクライナが、地雷を入手、備蓄、使用できる状況は一切ない」と述べた。 世界最大の地雷除去支援団体ヘイロー・トラストは、「東ヨーロッパにおける対人地雷の使用による、さらなる地雷汚染拡大の可能性は、明白かつ差し迫った危険だ」と述べた。 ヘイロー・トラストは今月、ウクライナを「地雷による汚染が甚大」な地域に再分類した。また、2022年の本格的な戦争開始以来、ウクライナには200万個以上の地雷が埋設されたと推計している。 国際法上、地雷の使用は違法ではない。しかし現在160カ国以上が、対人地雷の生産、使用、備蓄の禁止を定めた「オタワ条約」に署名しており、ウクライナもそのひとつだ。 しかし、2014年にロシアがクリミアを違法に占領した後、ウクライナは他の加盟国に、占領地域における条約の適用は「限定的であり、保証されない」と通知している。 ウクライナのドミトロ・クレバ外相は先に、アメリカの立場を擁護し、国際法の範囲内だと述べた一方で、「人権を擁護する人々に道徳的な影響がある。それは完全に理解している」と付け加えた。 「しかし、われわれは悪質な敵と戦っている。そして、自分たちを守るために、国際法の範囲内で必要なあらゆる手段を使用する権利を持たなければならない」と、クレバ氏は述べた。 活動家らの主な懸念のひとつは、地雷が民間人に危険をもたらすことだ。地雷は地下に埋められたり地表にばらまかれたりするため、無差別に殺傷を引き起こす。 もうひとつの問題は、紛争が終結した後の地雷除去のプロセスだ。地雷が埋められた土地の浄化には長い期間を要し、費用もかかる。世界銀行は昨年、ウクライナの地雷除去には374億ドル(約5兆7000億円)の費用がかかるだろうと報告している。 (英語記事 Biden agrees to give Ukraine anti-personnel mines/ Anti-landmine groups criticise US for sending mines to Ukraine)
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