入りびたった酒場の〝はたちメシ〟 思い出のメニューを前に「挫折ばかり」と振り返るけれど
18年ほど会社員とライターの兼業生活を経て、40歳でフリーランスに。今は執筆のほか、おつまみレシピ考案やイラストの仕事など、活動の幅は広い。 新刊の『缶チューハイとベビーカー』では、書内のイラストをすべて自分で描かれた。 内容はタイトルにあるとおり、愛娘と妻との生活を軸としたもの。ポルカが聞こえてくるような、朗らかな文章が魅力的だった。近い将来、お子さんと飲むのは楽しみですか、なんて訊きたくなる。 「いや、それは全然。酒好きに育ったらうれしいですけど、こういうのは求めるものでもないかなと。あ、ただ……僕が20代の頃に父が亡くなってしまったんですが、サシ飲みをしたことがないんです。それはひとつ、後悔がありますね」 父親の病気はALS(筋萎縮性側索硬化症)だった。「最後に会話したとき、もうはっきりとは話せなかったんですが、がんばれよ、って言ってくれたように僕には聞こえたんです」と言って、声を詰まらせた。 パリッコさんはインタビューの途中で「中学受験や漫画といい、音楽といい、挫折ばかり味わってきた人生ですよ」と笑って言った。 親御さんが折々のチャレンジをどう見ていたかは分からない。だが、著作の数々をお父さんが読まれたら「頑張ってるじゃないか」と誇らしげに言われると思えてならなかった。 「シメっぽい話になっちゃいましたね」と謝られる。二十歳の頃の自分に何か一言伝えるなら、なんと言いますかとたずねてみた。 「もうちょっと静かにしろよ、ですね」 え、と怪訝な顔をする私に「いや、いろんな酒場でかなりうるさく飲んでたからね……」と答えて相好を崩し、白ホッピーのお代わりを爽やかに彼は頼んだのだった。 撮影協力:高円寺『大将』本店 https://koenji-yakitori.com/ <取材・撮影/白央篤司(はくおう・あつし):フードライター、コラムニスト。「暮らしと食」をテーマに、忙しい現代人のための手軽な食生活のととのえ方、より気楽な調理アプローチに関する記事を制作する。主な著書に『自炊力』(光文社新書)『台所をひらく』(大和書房)『のっけて食べる』(文藝春秋)など。2023年10月に『名前のない鍋、きょうの鍋』(光文社)、2024年10月に『はじめての胃もたれ』(太田出版)を出版>