『おむすび』が“聖人君主な主人公”にしなかった理由 制作統括が考える“朝ドラらしさ”
NHK連続テレビ小説『おむすび』が現在放送中。平成元年生まれの主人公・米田結(橋本環奈)が、どんなときでも自分らしさを大切にする“ギャル魂”を胸に、栄養士として人の心と未来を結んでいく“平成青春グラフィティ”。 【写真】まだ心が震災から復興していない渡辺孝雄(緒形直人) 第9週では、祖父・永吉(松平健)を彷彿させる歩(仲里依紗)のホラ吹きにクスッとさせられる一方で、震災で娘の真紀(大島美優)を亡くした渡辺孝雄(緒形直人)を描くシーンでは、キャラクターそれぞれの思いに胸が締め付けられた。 これまでにも本作は、コミカルな要素とシリアスな要素を組み合わせるかたちで物語が展開してきたが、制作統括の宇佐川隆史は「コメディとシリアスどちらか一辺倒ではなく、真面目なことを語りながら、笑いもあるという作品を作るのは本当に難しい。(脚本が)根本ノンジさんだからこそ、こういった物語をお願いできました」と言い切る。 「根本さんは『正直不動産』(NHK総合)や『ハコヅメ~たたかう!交番女子~』(日本テレビ系)など、お仕事ドラマ×コメディにはもちろん定評がありますが、『監察医 朝顔』(フジテレビ系)や『フルーツ宅配便』(テレビ東京系)といった作品では、社会のリアルを巧みに表現されてきました。どちらもオリジナル要素も含めながらしっかりと書き切っていました。根本さんのこれまでの経験が、ある種合体したドラマになっていると思います」 さらに、宇佐川は俳優陣の手腕についても言及し、「コメディシーンとシリアスシーンの演じ分けというか、いろいろな要素を同じ人間、同じドラマの中で表現できる方、というところを意識してオファーさせてもらいました」とキャスティングを回顧。 「たとえば、仲さん演じる歩は豪快で大胆で楽しい、永吉さんに似た側面を持っていながらも、真紀ちゃんに対する思いや弔い、そして真紀ちゃんのお父さんに対する思いも非常に深くあって、どちらも同じ歩なんですよね。そこに説得力を生むためには、脚本の力と俳優部の力、すべての総合力で乗り切らなければ成立しないだろうと思っていました」と語り、「それをやることが、今回のチャレンジの一つだろうなと。裏側では丁寧に丁寧に、内容も時に社会のリアルを含みながら作っていきますが、表向きとしては、気軽に楽しく観てもらいたい。だからこそ、コメディテイストも入れた上で、これまでと変わらず、時にツッコミを入れてもらいながら、シンプルに見えるようやっていこうと思います」と決意を口にした。 第42話では、結が栄養士専門学校の同級生・沙智(山本舞香)に、彼氏である翔也(佐野勇斗)の献立表を一緒に考えてほしいとお願いする。あまりの図々しさに、視聴者から否定的な声も上がりかねない場面だが、宇佐川は決して聖人君主な主人公を描きたいわけではないのだという。 「ドラマを気持ちよく観てもらうためには、主人公の良い面だけを生かしていけばいいのかなと思います。正直なところ、朝ドラでも多くがそう描かれてきた。しかし人間にはいろいろな側面があって、結の突破力や、素直に話かける姿勢は、長所になるばかりか、むしろ短所にもなるはず。結を無理して良い子に描きたいとは思ってはなく、18歳の等身大として描きたい。今の18歳や、当時の18歳の人にも随分と話を聞きました。もちろん、自分たちの18の頃も思い出しながら。随分と調子にのっていたなと思い出しながら(笑)」 一方で、「今回のヒロインは本当に見守り型だなと。時にヒヤヒヤするのではと思います」と本音も。その上で、「第1章(糸島編)は、極端に言うと、朝ドラヒロインの誕生編だったんですよね。みなさんに、ヒロインが生まれる瞬間を見ていただいた。これまでにない展開だと思いますが、そういった意味でいうと、ここから先は、また違った展開を意識してやっています。どう見て頂けるかは分かりませんが、いろいろな朝ドラがあっていいと思いますし、今作るのであれば、“朝ドラらしさ”も含めて、こういった朝ドラを作りたいと思っています」と力を込めた。 宇佐川曰く、「結の心情に合わせて、ドラマのテイストやスピードまで変わっていくのも根本さんの脚本ならでは」。ますます加速する物語には、まだまだ見どころがありそうだ。
nakamura omame