「火星に液体の水」NASA発表の根拠は“塩”?
RSLはどうやって見つかったのか?
現在も火星の上空を回って空から火星を調べているNASAの周回探査機マーズリコネサンスオービターに載っている高解像度カメラHiRISE(High Resolution Imaging Science Experiment)は、火星表面にある25センチの大きさの物体まで確認することが出来ます。このカメラで撮った画像を、よく観察したところ、クレーターの縁の斜面になっているところに、何か線のような黒い跡が見つかりました。水がちょろちょろと流れた跡のようにも見えます。しかも、上の動画のように他の時期に同じ場所を撮った画像と比べると、線が長くなったり、消えたりする様子が見られました。 ……と言葉で説明してもよく分わからないと思うので、下の動画をご覧ください。同じ地点を違う日時に撮った画像を比べると、RSLが変化する様子が分わかります《画像はこちら》。 この奇妙な筋がRSLで、2011年8月に最初の論文が発表されています。RSLは地下を水が流れていて、それが地表に浸み出しているものなのでは?と考えられました。
RSLの形成に流水が関与している?
「これは火星に液体の水があるということか?」と火星の研究者はRSLに注目しました。しかし、RSLが“液体の水”によって作られた跡だと判定するのはとても難しいのです。それに、RSLは水とは関係ないもので形成された、たとえば黒い砂が表面をさらさらと流れただけ、という可能性も大いにあります。 「見た目が川のようだから」「暖かくなると流れるのは地下の氷が解けて流れ出すから」などはもっともな考えですが、これは推論であって、証拠としては不十分です。見た目だけでなく、化学物質としての水を表す証拠が必要です。 頼みの綱は分光器です。先ほどの火星周回機にはCRISM(Compact Reconnaissance Imaging Spectrometer for Mars)という分光器も搭載されています。分光という手法で、地表にどんな物質があるかが分かります。物質からの反射光を波長ごとに分けて調べると、物質の種類ごとに分光のパターンが変わります。どんなパターンになるかで、その物質の種類が分かるわけです。水なら水が示す特定のパターンが見られるはずです。しかし、残念ながら、周回探査機上のCRISMでは、火星の地表面にあるRSLは細すぎて分かりません。 当時、大学院生だった私は、ならば、HiRISEの高解像度の画像から分かることはないかと指導教官や研究室のメンバーと議論しました。流水ならば石が押されて動くかもしれないと撮影時期の異なる2枚の画像を拡大して細部まで少しずつ見比べるなどと、地味で根気のいる作業をいろいろやってみましたが、完全にお手上げでした。 大前提として、気圧の低い火星では、水は氷か水蒸気の状態でしか通常は存在できません。ドライアイスが液体にならずに気体の二酸化炭素になるように、氷が液体の水を経ずに、すぐに水蒸気になってしまうのです。 ただし、真水ではなくて、例えば海水のように塩分を含む水であれば、氷となる温度が低くなり、液体でも存在できるかもしれません。そこで、塩水探しが始まり、世界中の研究者がRSLを調べていましたが、何がRSLのような跡をつくったのか、その決定的な証拠を出すことはできていませんでした。