聖地から(7月28日)
〈ミラボー橋の下をセーヌが流れる二人の恋も〉(窪田般弥訳)。詩人アポリネールが絶唱「ミラボー橋」に描いたフランス・パリ。1世紀ぶりの五輪は少々、心ざわつく内で幕を開けた▼開会式は、芸術の都にふさわしい奇抜で鮮やかな演出が目を引いた。笑顔あふれる水上のボートパレードは語り草だろう。日本は今回、海外開催では最多となる400人超の大選手団を送り込む。スポーツの国際舞台で存在感を増している証しだ。20個の金メダルを目指すドラマに、列島は連日ヒートアップする▼本県関係では19選手が出場を予定している。古殿町出身の窪木一茂は自転車トラックの3種目でメダルを狙う。バドミントンは、富岡高出身の5人が3種目に挑む。女子サッカー代表には、JFAアカデミー福島出身者ら8人が名を連ねた。被災地から海を越えて届く声援は躍動の力になる。悲願の凱歌[がいか]を響かせて▼〈人の世の何と歩みのおそいこと 希望ばかりが何と激しく燃えること〉。悲恋の詩人は欄干にもたれ、わが身を包む社会と時代の非情をも嘆く。各国・地域のアスリートは、世界中の砲声を一刻も早く消し去るメッセージを。自由、平等、博愛の聖地から―。<2024・7・28>