「鍋を片手に世界の果てまで」…世界中に広まった“華人”の中華店を訪ねて地球を一周した著者が語る「冒険の始まり」
北米中華、キューバ中華、アルゼンチン中華、そして日本の町中華の味は? 北極圏にある人口8万人にも満たないノルウェーの小さな町、アフリカ大陸の東に浮かぶ島国・マダガスカル、インド洋の小国・モーリシャス……。 世界の果てまで行っても、中国人経営の中華料理店はある。彼らはいつ、どのようにして、その地にたどりつき、なぜ、どのような思いで中華料理店を開いたのか? 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 一国一城の主や料理人、家族、地元の華人コミュニティの姿を丹念にあぶり出した関卓中(著)・斎藤栄一郎(訳)の 『地球上の中華料理店をめぐる冒険』。食を足がかりに、離散中国人の歴史的背景や状況、アイデンティティへの意識を浮き彫りにする話題作から、内容を抜粋して紹介する。 『地球上の中華料理店をめぐる冒険』連載第2回 『雨の夜、マダガスカルで出会った「怪しい華人」と酌み交わす…場末のバーで“国民食”として振る舞われた「マダガスカル中華」のお味は? 』より続く
「你吃了嗎?(ごはん食べた?)」
「你吃了嗎? (ごはん食べた? )」 中国語の日常会話でよく耳にするこのフレーズは、英語の「How are you? (元気? )」に近いニュアンスで、挨拶に使われる。 人生で食が重要な意味を持つ文化だけに、食事がとれているかどうかを問う行為自体、相手を気にかけている証拠なのだ。 戦争やら飢饉やら貧困やらで、昔の中国の人々は満足に食にありつけないこともたびたびあった。だから、このような問いかけ方が、相手の健やかさを気遣う表現になったのだろう。 やがてその問いかけは、世界中の華人の間で挨拶として定着することになる。本当に華人は世界の至るところに存在するのである。
世界中どこにでもある中華料理店
広東語には、「(中華)鍋一つ手にして、世界の果てまで行く」(「一鑊走天涯」)ということわざがある。 そのとおり、世界のどこに行っても中華料理店がある。 そしてその土地に合わせて変貌を遂げている。米国中華、キューバ中華、ジャマイカ中華、ペルー中華……。挙げ始めたらキリがない。 インドのコルカタのサムソン葉は、インド式中華料理について説明する中で、「新しい環境に適応し、逆らうことはない」と話していた。 それは料理だけでなく、華人そのものに置き換えても同じ結論になるのではないか。 私自身、いわば華人の“正会員”である。中国返還前の英国統治時代の香港に生まれ、人格形成期をシンガポール、香港、日本で過ごした。 米国の大学に学んだ後、カナダに移住し、欧州、中東、アフリカ、アジアで働いたこともあって、3ヵ国語にプラスして中国語方言も2つ話せる。 1976年、サンフランシスコから西に向かい、ぐるりと地球を一周してトロントにゴールする旅をした。そしてこのトロントで移民を申請することになる。 イスタンブールで初めて中華料理店に入ったのも、この旅の途中だった。旅行ガイドの『Let's Go Europe』によれば、店のオーナーは、同地に「中国から歩いてきた」という。 この店にたまたま立ち寄ったことがきっかけで、後に中華料理店のドキュメンタリーシリーズの制作につながり、あれから25年後に再びあの店に足を運ぶことになったのである。 4年間、華人が手がけるおいしい料理と興味深いエピソードを求めて世界各地に足を運んだ。アマゾンから北極圏まで20万キロを超える冒険の旅である。 『世界中に広まり続ける華人にいまなお共通する「アイデンティティ」とは…中華料理を辿って見えてきた中国人の“民族性”』へ続く
斎藤 栄一郎(翻訳家・ジャーナリスト)/関 卓中(映像作家)