ホラーの原点は古里の森への畏怖、「永遠の子ども」森へと帰る…楳図かずおさん逝く
「おろち」「漂流教室」など恐怖漫画の第一人者で、ギャグ漫画でも「まことちゃん」を大ヒットさせた漫画家の楳図かずお(うめず・かずお、本名・一雄)さんが10月28日午後3時40分、胃がんで死去した。88歳だった。葬儀は関係者で済ませた。後日、お別れの会を開く予定。
「僕は量子コンピューターに負けない物語を作る!」
記者が病床を訪れる度に、楳図かずおさんは、ベッドから体を起こせない状態だったが、新作の構想を熱っぽく語り、1時間以上も話が止まらなかった。1枚でも絵を描いてくださいと記者が言うと、ニッコリして「そうだね、描かなきゃね」と返した。それはかなわなかった。
まだ元気だった頃、楳図さんに生い立ちをじっくり聞く機会があった。「僕は山の中っ子なんです」。幼少期を奈良県の山村で過ごした。母の実家は有数の過疎地である同県野迫川(のせがわ)村。その風景が「へび女」の故郷のモデルになった。楳図さんは森を描くのがうまい。しかも、黒々と不気味な森ばかりだ。楳図さんの「恐怖」の原点は、子どもの頃、父母と一緒に歩いた森の夜道だったのだろう。「村で小学校の教員をしていた父が、夜の森で出会って一番怖いのは、人間だって言うんです。よく覚えてる」
楳図さんの独創性は、家の中にも、都会にも、人の心にも、暗い森が広がっていることを描き出したことだ。森は、野蛮で豊穣(ほうじょう)な生命力の象徴でもあろう。あまりに怖い作風は大人から批判も浴びたが、それでも子どもたちが夢中になったのは楳図ホラーの根源が、紀伊半島のまん中、日本の文化の最古層にある森への畏怖と、どこかでつながっているからではないか。怖い森は、奇妙なことに、懐かしい場所でもあるのだ。
「わたしは真悟」においては、コンピューターやロボットの内部にさえ、蛇のように絡み合うコードの森があることを示した。楳図かずおの本質は「森から来た漫画家」なのだと思う。