<eye>若者が描く家業の未来 「後継ぎ」を選択した女性たち
多様な仕事を選択できる時代に家業を継ぐ若者たちがいる。帝国データバンクによると、後継者不在で事業継続できなかった「後継者難倒産」は、2023年に500件を超え、過去最多となった。後継者不足が深刻化する中、「後継ぎ」を選んだ女性たちを訪ねた。 【写真特集】跡継ぎとして活躍する女性たち 「だるま屋になるとは思っていなかった」。そう語るのは、群馬県高崎市で創業100年を超える「だるまのふるさと大門屋」の5代目、中田千尋さん(35)だ。 厳しい父から離れたくて、東京の大学に進学。しかし、卒業論文に取り組む中で、だるまに改めて向き合った。幼い頃の思い出などを振り返るうちに、自分がやりたいことだと気づいたという。 だるま職人となって7年、店は新型コロナウイルス禍で大打撃を受ける。海外から観光客が来ず、売り上げが激減。電気代すら払えなくなった。危機を救ったのは「アマビエだるま」だった。鮮やかな赤でなく、やさしい紫と緑、かわいらしい顔のデザイン。5万個以上売れる大ヒットとなった。その後も、今までにない色味のだるまを作り、海外にも販路を広げている。 和菓子の伝統を守りつつ、親しみやすい味を追求する岩下美月さん(25)は、東京都文京区にある「扇屋」の4代目。幼少期は店が遊び場で、親が働く姿を見て「かっこいいと思った」という。 高校時代の留学先で家業が和菓子店だと伝えると、返ってきたのは羨む声だった。「日本の伝統に携わった仕事をやってみたい」と思い、19年から製菓学校に通いながら実家で働き始めた。作った和菓子は「インスタグラム」に投稿。フォロワーは1万人以上になり、海外から訪れる客も増えたという。また、洋菓子の要素を加えた商品も考案するなど、店に新しい風を吹き込んでいる。 東京都板橋区の洋食店「AIDA」の間宮来未さん(22)は、亡き父の味を再現している。がんを患っていた父透さんが緩和病棟に移ったのは高校生の時。店をどうするか悩む母ゆみ子さんに「私がやる」と訴え、後を継ぐと決めた。 父は20年に他界し、来未さんはゆみ子さんと営業を続けている。現在は調理場から接客、事務作業まで幅広く担当。看板メニューのハンバーグは父の「重たい味」をベースに母の「あっさり味」が加わった。来未さんは調理時、この味をいつも同じように提供できるように心がけているという。 父はハンバーグの見た目にもこだわっていた。いつ来ても、誰が見ても「おいしそう」と思える形。それも変えずに守り続けたい。そこに父の思いが込められているから。【前田梨里子】