壮絶な親子ゲンカも…荒川の下町育ち・鈴木誠也が母を泣かせた“ボロボロのアンダーシャツ”「やんちゃだけど不良ではなかった」親友が語る素顔
昨シーズン、WBCは無念の離脱となったが、MLBシーズン20本塁打を達成した鈴木誠也(29歳)。この記録は松井秀喜、大谷翔平に次ぐ達成で、日本人右打者としては初の快挙となった。 シカゴ・カブス加入3年目となる今季も好調を維持する鈴木の原点に迫った、Sports Graphic Number911号(2016年9月23日発売)掲載の「誕生秘話 鈴木誠也が“神る”まで。」を特別に無料公開します〈全2回の前編〉。※肩書きや年齢などはすべて初出時のまま 【貴重写真】「眉毛薄っ!」“荒川のやんちゃ坊主”だった頃の鈴木誠也…最強世代と呼ばれた中学時代から黒田さんにビールかけたカープ隆盛期、ドジャース大谷翔平と談笑するMLBセイヤまで一気に見る(40枚超) ◆◆◆ ――かねてより期待されていた若鯉が今季、ついに才能を爆発させた。荒々しく走攻守に躍動する姿は、現代の若者像からかけ離れている。その闘争心はどこで育まれたのか、“神ってる”22歳が生まれた東京の下町・荒川区町屋での、野球を通じた成長物語。 ◆◆◆ 広島から約680km離れた荒川区町屋。東京で唯一の路面電車、都電荒川線の走る下町。自転車で10分の場所にはかつて“光の球場”と呼ばれた東京スタジアムがあり、梶原一騎の名作『巨人の星』で星一徹・飛雄馬親子が住んでいた町でもある。 「この頃は町屋も元気がないんですよ。もともと町工場が多く、草野球チームもたくさんあったので、店にも野球好きが集まってきたんだけどね。今は不景気から閉鎖する工場が増えて、人も減ってしまったよね」 駅前でスポーツの珍品貴品を取り扱う「流体力学」を営む店主・前野重雄は、そう言って寂しそうに笑った。 「昔、町屋駅のすぐそばにはね、この町のランドマーク的な存在の喫茶店があったんですよ。その店が今でも残っていれば、また違ったのかもしれないですけどね」
「ただいま! 生姜焼き作って!」
京成電鉄町屋駅。その改札からすぐ脇のガード下の空地にはかつて「MACHIYA」という古い喫茶店があった。 高度経済成長期直前の昭和32年に開店したその店は、町屋に無数存在した町工場の工員たちの憩いの場だった。マスターの鈴木宗人は、17歳から厨房に立つ筋金入りの野球好き。看板メニューの生姜焼きは、腹を空かせた工員と、午後になると「ただいま! 生姜焼き作って!」と飛び込んでくるこの店の子供の大好物だった。 子供の名は誠也といった。 父・宗人が小学生の頃から決めていたその名は「野球が上手くて、カッコよくて、花形満のような華やかな存在」と憧れていた野球チームの先輩の一字に肖(あやか)ると同時に『仲間から名前で呼んでもらえるように』という願いが込められた。誠也は元来の人懐っこい性格もあって、親の願い通り店を訪れる大人達から大層可愛がられて育った。「将来はプロ野球選手になる」という誠也の口癖は、家庭の事情により中学で野球を諦めざるを得なかった父の夢でもある。10代で結婚しても「ちゃんと育てるために」と10年は懸命に働き子供は我慢した。1994年、30歳の時に誕生した待望の長男は、神様からの贈り物のような野球の申し子だった。 生後1カ月。父の不注意により高所から落下しても額の擦り傷だけで済んだ体の強さと強運があった。1歳の誕生日では一升餅を背負いながら走り回るパワーとスピード。2歳では祖父が投げるボールを見事に打ち返すミート力を備えていた誠也は、小学校2年生で「野球をやりたい」と地元の荒川リトルに入団。練習のない平日は、店の裏にある都電荒川線と並行する路地で投球練習をし、荒川線に負けじとダッシュを繰り返す。 父は店の倉庫を改造し手製の打撃練習場を作ると、その様子はテレビ番組で「平成の星親子」として紹介される。実際の親子関係も“大リーグ養成”さながら、父が特注の細い鉄のバットでゴルフボールを打つ特訓を課すと、子は百発百中で打ち返す。父が一徹ばりのビンタをすれば、子が負けじと喰らいつく。壮絶な親子ゲンカは日常茶飯事だった。
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