「ハイブリッド熊」説の真偽を専門家に聞くと… 被害者の妻が明かす「秋田3人死傷クマ事件」直前の会話 「“爆竹を買った方がいい”と勧めたのですが」
“助けて”という警官の声
特筆すべきは遺体が置かれた状態だった。 「周囲の竹藪はなぎ払われていた。クマの巣になっていたんです。実際、新しい糞もあった。また、ご遺体には落ち葉がかけられていました」 クマは餌に土をかぶせて“土饅頭(どまんじゅう)”として保存する。状況から、周囲にクマが潜んでいる可能性は十分考えられたのだが、 「佐藤さんを運ぶために、一度、下山して警察と消防を呼んだのです」 A氏は友人と警官2名、消防隊員4名のあわせて8名で現場に戻った。直後、第二の事件が発生する。 「“佐藤さんを担架で運ぶので後ろからついて来て”と言われたのですが、後ろが一番襲われやすいじゃないかと思ったのを覚えています。担架に近寄った途端、“クマが来た”という叫び声が、ウォーッといううなり声と一緒に聞こえて、慌てて駆けだしました。後方から“助けて”という警官の声もしましたが、消防士も“無理です”と言いながら、逃げだしていました」
鼻もちぎれそう
命からがら麓の車まで戻り、息を整えていると、 「若い警官が、血だらけの姿でやってきた。顔は右上の、耳あたりから顎付近まで、斜めに深い傷があって、裂けていた。鼻もちぎれそうで、ひん曲がっていました。約15分後には中年の警官も自力で逃げてきたのですが、彼は“腕が動かない”としきりに呻いていた」 二人は救急搬送されて一命を取り留めた。だがしかし、帰らぬ人となった佐藤さんのご遺体の損傷具合は、さらに筆舌に尽くしがたいものだった。 「佐藤さんの死因は失血死。頭蓋骨骨折のほか、左右上肢、左右下肢にも損傷が見られました」(警察関係者) 妻が打ち明ける。 「葬儀屋さんにも止められたので、(遺体には)対面していません」 その後、現場付近でクマが捕獲されているが、 「わなにかかったのは50キロのメス。事件とは関係なさそうです」(猟友会関係者)
「ハイブリッド熊」説の真偽は…
今回の現場周辺では以前から、「赤毛のクマ」の存在がうわさになっていたと言うのは先のA氏で、 「ある人はツキノワの2倍近いサイズの赤毛を見たって。以前、岩手の八幡平にあった熊牧場からヒグマが逃げ出したという話があって、そのヒグマとツキノワが交雑して、ハイブリッドが生まれているんじゃないかともいわれていました」 しかし、北海道大学の坪田敏男教授(獣医学)は以下のように解説する。 「ツキノワグマとヒグマは、種が明らかに違います。種が違うと“生殖隔離”といって、一般的には生殖ができない。過去に動物園などでは例外はありましたが、野生下でその両種の交雑種が繁殖した可能性は、非常に低いと思います」 人々の恐怖心の増幅が、幻のクマを生み出したのか。 「週刊新潮」2024年6月27日号 掲載
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