人間国宝の染織家・志村ふくみの回顧展が大倉集古館で開催 『源氏物語』に着想を得た作品群など約60件を展観
紬(つむぎ)織りを独自の感性と想像力で芸術性の高い作品として発展させ、人間国宝に認定された染織家・志村ふくみの100歳記念の回顧展が、11月21日(木)から2025年1月19日(日)まで、東京・虎ノ門の大倉集古館で開催される。 【全ての画像】志村ふくみ《秋霞》ほか広報用画像(全12枚) 1924年、滋賀県に生まれた志村ふくみは、31歳のときに、民藝運動に関わっていた母・小野豊(とよ)の指導により染織を始め、母の縁を通じて知った柳宗悦や富本憲吉、黒田辰秋らを工芸の道の師とあおぐことになる。以後、自然にある無数の色を抽出し、紬糸を染めて織るという、いわば人と自然が共生する営みに打ち込んできた。 初期の代表作から初公開の近作までが網羅されているが、初期作では、ふくみ自身が「はじめての着物」と述べる代表作《秋霞》も登場する。染織家としての原点ともなったこの作品は、1958年の第5回日本伝統工芸展の奨励賞受賞作。同展での紬織着物の受賞は画期的で、その後の工芸界に大きな影響を及ぼしたという。 さらに、染織家としての道を歩み始めた地である琵琶湖とその周辺の情景に着想を得た作品や、和歌や古典文学への深い関心と理解を背景に、『源氏物語』など王朝文学に着想を得た作品群、また60代から始めたオーストリアの思想家シュタイナーの色彩論の研究や欧州旅行の影響から、感情の動きを即興演奏のごとく色糸で織り込んだ作品、そして小さな布片を接ぎ合わせる切継(きりつぎ)技法を用いた2000年代以降の作品など、多彩な作品が並んでいる。 随筆家としても知られるふくみは文筆にも優れ、手稿の《野の果て》は、自身が書いた童話に、夭折した兄 ・小野元衞(もとえ)が絵を描いたものだ。同展は、ふくみの芸術精神の形成に多大な影響を与えた兄にも光を当てているが、今回はまた、ふくみが100 歳を目前にして若き日を回想して制作した紬織《野の果てII》も発表される。近作ではまた、石牟礼道子(いしむれ みちこ)原作の新作能『沖宮(おきのみや) 』のために制作した独特の雰囲気を醸し出す衣装も初公開となる。 同展は、ものづくりに対する独自の芸術理念を貫きながら、70年にわたって創作活動を展開してきた志村ふくみの軌跡をたどるもの。約60件の作品によって、そのものづくりの精神にじっくりとふれられる貴重な機会だ。 <開催概要> 『特別展 志村ふくみ 100 歳記念―《秋霞》から《野の果て》まで―』 会期:2024年11月21日(木)~2025年1月19日(日) ※前期は12月15日(日)まで、後期は12月17日(火)から 会場:大倉集古館