王者ネリ禁止薬物で無効試合なら途絶えた山中の連続防衛記録が復活する?!
WBCのスレイマン会長は、米国のボクシング専門メディア「ボクシング・シーン」の取材に対して、「クレンブテロールという薬物に近い反応が出ているが、それは肥育された牛肉から出ることがあり、メキシコのアスリートにはよく起こること。ティファナに近いアメリカの地域などで飼育された牛肉にも使われている。まだわからないことが多いので結論を急がない。直接、本人に話を聞いてからだ」と、“ネリの過失”を前提に王者を擁護する談話を残しているが、ドーピングについて詳しい関係者は、その意見に否定的だ。 「今回、発表されたジルパテロールは、クレンブテロールに成分が似ています。クレンブテロールは、喘息薬に含まれている成分で、血管を広げる、アドレナリンの受容体を活性化する効果があります。細胞に対してアナボリック効果が期待できます。簡単に言えば、筋肉をつきやすくする働きがあり、ステロイド系ではないため副作用が少なく、使いやすいという特徴があります。うまく使えば、減量効果もあります。 ドーピング禁止薬物ですが、そういうドーピング対象競技ではないアスリートが使うケースが少なくありません。ジルパテロールを含んだ肥料で育った牛肉を食べた場合にも、ドーピング検査でポジティブ反応が出るとされていて、それを言い訳に使う選手が多いようですが、私は少々疑問を持っています。確かに、科学的にその成分が入った肥料で育った牛肉を食べることで陽性反応が出るという可能性は否定できませんが、決して、その確率は高くはないのです」 つまり「限りなくクロに近いだろう」との推測だ。 一部では、ネリが減量に苦しんでいたことと、その肉体の筋肉の強さが目立ったと指摘する声もある。 ボクシング界では、過去にドーピング違反による無効試合やタイトル剥奪に至ったケースは少なくない。日本人ボクサーが絡んだケースでは、元2階級王者の粟生隆寛(帝拳)が2015年に米国で行われたWBO世界ライト級王座決定戦で、レイムンド・ベルトラン(メキシコ)と対戦した際に、ベルトランの計量失敗もあり、粟生はTKO負けを喫したが、後にベルトランの筋肉増強剤使用によるドーピング違反が発覚。この試合は無効試合とされ、粟生が再び世界挑戦権を得た例もある(粟生のケガで辞退)。 ただその一方で、昨年、前WBC世界スーパーフェザー級王者のフランシスコ・バルガス(メキシコ)がオルランド・サリド(メキシコ)とのタイトル戦前に受けた抜き打ちのドーピング検査で、同じくクレンブテロールが検出されたが、このときもバルガス陣営は「食べた牛肉に混じっていたのではないか」と主張。試合直前のドーピング検査を厳密にすることを条件に処分を下されることなく試合が敢行され、バルガスがドロー防衛した例もある。 今後のWBCの調査結果次第で、シロかクロか、結論がどちらに傾くかの見通しは立たないが、進退について保留している山中の心中に大きな影響を与えた事件であることだけは間違いない。6年間に渡って積み上げてきた記録が、一度は途絶えたはずが再び蘇るのであれば、その奇跡的な運命に再びリングに立つというモチベーションはアップするだろう。 また無効試合、王座剥奪となった場合、ネリには同時に出場停止処分も科せられると見られ、山中とネリの再戦の可能性は、ほぼ消滅する。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)