吉高由里子×柄本佑が紡ぎ出す真っ直ぐな美しさ 『光る君へ』に詰まった“書き手”の想い
『光る君へ』で目を離せないのが藤原一族の「家」を巡る物語
そして目を離せないのが、藤原一族の「家」を巡る物語である。父・兼家の死をきっかけに、権力は、家思いの温厚な長男・道隆(井浦新)を狂わせた。その「家」の呪いは、その息子・伊周(三浦翔平)にも伝染し、定子(高畑充希)を苦しめる。片や次男・道兼(玉置玲央)は、父親による支配から解放され、自由になりつつあったが、第18回で思わぬ最期を遂げた。 関白就任の日、倒れる道兼と、驚いて見つめる人々の実際の喧騒の音は排除され、人ではない何かの声のようなものが、彼の周りを覆っていた。それはもしかすると、彼が傷つけてきた、もうこの世にいない、あるいは表舞台から退けられた人々からの怨念の声だったのかもしれない。闇の中を生きることを義務づけられてきた男は、権力の中枢という最も日の当たる場所に辿りつくことはできなかったが、最期は暗闇の中で、陽だまりのような弟・道長の優しさに包まれて逝った。 そのことを知り、琵琶を奏でることで彼の魂の救済を祈るまひろといい、第18回は、初回でヒロインの母・ちやは(国仲涼子)を殺め、その間接的な要因を作ったまひろと道長を「罪の共有」という形で繋げた「最も罪深い悪役」であるところの彼を、まるごと包み込んで見せた。なぜなら、人の心は複雑で、だから人間は面白いから。 まひろと道長の関係は時に少女漫画のように、視聴者の心を甘くときめかせる。同時に、それぞれの志を貫き大空を自由に飛ぶ2人が描く真っ直ぐな軌跡は、類まれな美しさでもある。第18回冒頭は、鳥不在の鳥籠のショットから始まった。昼と夜の違いはあるが、まひろと道長が互いの罪と業を共有し、ともに背負った第5回冒頭と対になっている。その後、それぞれの場所で「最初の罪」と対峙し、受け入れた2人は、運命の場所で再び出会う。でもまひろは道長が自分ではなく、「昔の己に会いに来た」と思い、敢えて言葉を交わすことはない。副題は「岐路」。これからが本当の、それぞれの人生の物語のはじまりである。
藤原奈緒