「走行距離の短い中古車=程度がいい」と思ってないか? 中古車選びでハマリがちな低走行車のワナ
高値な低走行車よりも安い過走行車のほうがメリット多し
オイルやタイヤ、ベルト類など、クルマの消耗部品を交換するとき、走行距離を基準にしているものは多い。そうした主な消耗品だけでなく、クルマを構成するおよそ3万点の部品ひとつひとつが、走れば走るほど消耗するので、走行距離の短いクルマは元気で走行距離の長いクルマはポンコツに近いともいえて、中古車でも低走行距離の個体ほど高値がついていたりする。 【写真】30年近く前のクルマなのにめちゃめちゃ見かけませんか!? ホンダ3代目ライフが生き残る理由 しかし、低走行距離の個体って、そんなにありがたいものだろうか? クルマの仕事は走ることなので、自動車メーカーはエンジンや駆動系をはじめ、すべての部品について、「作動中」であることを前提に設計している。 エンジン内部もトランスミッションも、デフもブレーキもベアリングもエアコンも、つねに動いていることを想定して設計しているので、動かしていないほうがむしろ劣化は早い。 一番劣化しやすいのはゴム類で、熱を入れて柔らかくし、伸びたり縮んだりさせないと、すぐに弾力がなくなってくる。タイヤやブッシュだけでなく、ホース類やベルト、パッキン類の硬化も心配だ。 オイルも循環しているからこそ油膜を保てるし、フルードだって適度に流れていないと必要なときに動きが悪い。ガソリンだって半年も放っておけば腐りだすし、電気も流れていないと不安定になりやすい。 もっと身近な例でいえば、普段、奥さんが近所の買い物にしか使っていないクルマにたまに乗ってみると、えらくエンジンが「重たく回りにくいな」と感じたことはないだろうか。何かの休日、そのクルマでドライブに出かけ、ちょっと高速道路で遠くまで行って帰ってくると、少しずつエンジンが軽くなり、吹けがよくなったりすることがあるはずだ。奥さんからも「あれ、なんかクルマの調子がよくなった気がする」なんていわれたりして……。 これは長距離を走らせたことで、たまっていたスラッジやカーボンが飛んで、冷却系のよどみなどが解消されたことによる、回春効果。 車内だって、長期保管が続けば空気は淀むし、湿気がこもり異臭やカビの原因になる。家だって、「人が住まない家は急速に傷む」といわれるように、クルマだって走っていないクルマは傷みやすく、劣化が進むものなのだ。 その反対の例がタクシー。最低限のメンテナンスで毎日酷使されているにもかかわらず、30万~40万kmもほとんど故障知らずで走っていることからも、クルマの健康寿命を延ばすには、コンスタントに走らせることが大事な秘訣であることがわかる。 1年間で1万~2万kmぐらい走っているクルマが一番元気なはず。それ以上の過走行車は消耗度もそれなりだろうが、走行距離が短すぎるクルマは、全身のあちこちがカチカチに固くなって、運動できるコンディションを取り戻すには、ずいぶんとリハビリが必要になる。 保管状態によってももちろん左右されるだろうが、走行距離が極端に短いがゆえに高価な中古車を買うぐらいなら、「年数×1万~2万km」の個体をそこそこの値段で購入するほうが、メリットは大だと思ったほうがいいだろう。
藤田隆太