女児の陰毛を診察した「専門医」は、なぜ「今後も見る」と開き直ったか…元大学教授がトンデモ行動に出る根本原因
■患者よりも自身の専門性を優先してしまった結果 「出生時、性分化疾患が疑われた場合は、緊急事態であり速やかに、かつ適切な対応がとられねばならないが(中略)差し迫った問題は親に何と説明するのか、性の判定は家族にとって最大の関心事である。説明の仕方によってはその後の育児、養育、家庭生活などに重大な影響を及ぼす。性分化の専門ではない医師への初期対応マニュアル、使用しない方がよい用語などをまとめたものを作成する必要がある」 性分化疾患患者の包括的な支援だけでなく、家族の心理的負担への対応の重要性にも言及している。机上ではこのようなまっとうな論述をされたA医師が、なぜ現場ではあのようなプロフェッショナリズムにもとる行動をとってしまったのか。 その理由は私にもわからないが、私と同じく「医師のプロフェッショナリズム」について系統的な教育を受けぬまま、専門医そして教授へとのぼり詰めてしまったことで、「患者中心」から自身の専門性を優先してしまったのかもしれない。 ■専門医ゆえに陥りやすい「落とし穴」 それは「専門医」ゆえに陥りがちな落とし穴であるとも言えるだろうが、「専門医」ましてや「教授」という医師を育てる仕事をするならばこそ絶対に落ちてはいけない穴である。 だが今からでも遅くはない。医師ならずともすべての社会人に言えることだが、日々勉強、生涯学習が重要だ。そしてそれは何歳になっても成長し続けられるという意味にほかならない。とくに医師は、教授や先輩医師から教育を受けるだけでなく、患者さんから多くの学びを得て育つ。まさに生涯日々勉強なのだ。 まずは関係したすべての子どもたちに面と向かって心からの謝罪をおこなうこと。そして頑なに自説を押し通す姿勢を改め、子どもたちから上がった声に謙虚に耳を傾けること。その声から学びを得ることこそが医師のプロフェッショナリズムそのものであると、A医師をはじめ私を含めたすべての医師が、今一度、肝に銘ずるべきではないか。ネットに湧いた一部の医師たちの唯我独尊的な書き込みに接して、私は強くそう思う。 ---------- 木村 知(きむら・とも) 医師 1968年生まれ。医師。10年間、外科医として大学病院などに勤務した後、現在は在宅医療を中心に、多くの患者さんの診療、看取りを行っている。加えて臨床研修医指導にも従事し、後進の育成も手掛けている。医療者ならではの視点で、時事問題、政治問題についても積極的に発信。新聞・週刊誌にも多数のコメントを提供している。2024年3月8日、角川新書より最新刊『大往生の作法 在宅医だからわかった人生最終コーナーの歩き方』発刊。医学博士、臨床研修指導医、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。 ----------
医師 木村 知