1990年代のマニアックなセダン3選
(2)日産「レパード J.フェリー」
1990年代の日産セダンのなかで、マニアック度でピカイチは、1992年登場のレパード J.フェリーだろう。 理由はスタイリングだ。“尻下がり”と、言われた、後端にいくに従って下がっているトランクの傾斜が、妙に落ち着きのなさを感じさせたのが大きな理由とされた。 実は凝りまくったモデルで、従来とは違う新しいタイプの高級車と、当時の日産の開発陣の鼻息は荒かった。実際にV6もあればV8も。あえて後輪駆動方式を採用。リミテッドスリップデフやトラクションコントロール、さらに後輪操舵システム「スーパーHICAS」も組み込んで走りのよさを追求したトップモデルも設定されていた。 同時に内装も凝りまくり。当時、イタリアのスペシャルモデル(ランチア「テーマ8.32」とか)にも採用されていたポルトローナフラウ社のレザーを使ったシートもトップモデル「タイプX」に用意された。 実際にパワフルで、乗り心地もよく、ジャガーやメルセデス・ベンツではない高級車を作ろうという日産の意地を感じさせた。スーパーHICASは作動がやや極端な印象だったが、まぁ、すごいクルマだった記憶がある。 このスタイリングも、いまなら個性として十分アリ。あらためて乗ってみたいモデルだ。
(3)ホンダ「アスコット・イノーバ」
大きめセダンのトレンドには、ホンダも乗っかった。1992年に発売した「アスコット・イノーバ」。1989年に発表された「アスコット」のシャシーを使い、そこに4ドアクーペ的な、ちょっとスポーティな雰囲気のボディを載せたモデルである。この組合せもマニアックだし、1世代でモデルライフが終わったのもマニアック。 ベースのアスコットは、いかにも室内が広そうなマジメなデザインのモデル。この頃、(ようやく)ロングホイールベースのモデルが生産できるようになったホンダだけに、他社製品に対してひときわ長めの2720mmのホイールベースと、全長4680mmのボディを組み合わせた。 アスコット・イノーバは、ホイールベースこそ同寸。全長は10mm短かった。魅力は、さきに触れたとおり、スポーティさ。2.3リッターエンジンはパワフルで、かつ、足まわりの設定もハンドリング重視と、ドライバーズカーだった。 インテリアも品がよい仕上げで、後席空間も余裕ある広さ。ただ、当時ホンダ車に多かった前後ダブルウィッシュボーン式サスペンションは、ノーズの低さに同時にこだわったため、動きの自由度に制約が出てしまったせいか、乗り心地はそんなによくなった記憶がある。 当時のホンダ車のなかには、北米を主市場としながら、欧州のスポーティセダンを競合とみて開発したようなモデルがいくつもあった。アスコット・イノーバもそんなクルマだった印象。ある意味しっかりキャラクターがたっていて、こういうセダンがあるマーケットは健全だなぁと、今、思う。
文・小川フミオ 編集・稲垣邦康(GQ)