閉校を前に優勝に沸いた安芸高校陸上部 57人が刻んだ20年間の年輪
長く濃密な時間だった。安芸高(広島市東区)の三木仁司教諭(59)は、2004年4月から陸上部の顧問を務めてきて、そう思う。今春の閉校を前に、着任してからの「安芸陸」の歴史を1枚のCDにまとめた。教え子の顔を思い浮かべ、「もうちょっとああしておけばなというのが大半」と振り返る。 20年間の試合記録を網羅し、種目別ランキングも作成した。「一本の苗木が年月をかけて大きな木になることを願って」名付けた陸上部通信「大樹(たいき)」も収録。04年10月の第1号から23年11月の164号まで載せた。 刻まれた年輪の一つ一つに思い入れがある。卒業まで陸上を続けたのは57人で、「一人一人への関わり方は濃かった」。着任後最初の大会で、誰も時間通りに来なかったこと。やると約束した学校の課題を投げ出し、帰宅した部員を呼び戻したこと。11年の山口国体で教え子が初めて全国優勝した時に隠れて泣いたこと。苦労も涙も、今では笑って話せる。 「終わりには力があるんだ」。閉校まで1年となった昨春、全校生徒に語った言葉は現実になった。陸上部最後の試合となった昨年8月の県高校対抗選手権。最後の出場種目だった男子やり投げで、最後の投てきで逆転優勝を飾った。ドラマのような結末に「あの一投は57人の思いの表れ」。20年前に植えた苗木は鮮やかな緑の葉を付けた。 CDのタイトルは「大樹 安芸陸は永遠」。陸上部OBや関係者に渡すほか、学校の創立50年記念誌の付録として配られる。「木の形はさまざまでいい。それぞれの人生の中で苗木を大きくしていってほしい」。それが最後の贈る言葉だ。
中国新聞社