「まだ街では全然気付かれません(笑)」伊藤匠・新叡王が語る「藤井聡太・七冠 になぜ勝てたのか」
254日にわたり将棋の全タイトルを独占。タイトル戦22連覇中だった″難攻不落の天才″藤井聡太七冠(21)を破った「新叡王」が生まれ故郷の三軒茶屋(東京都世田谷区)に凱旋するも――。 【画像】全国大会でも藤井少年を破り、号泣させたことが…「伊藤匠叡王の少年時代」写真 「誰にも気付かれませんでした」と伊藤匠叡王(21)は苦笑いした。 「ありがたいことに、たくさんの方から(祝福の)ご連絡をいただきました。でもまだまだ街を歩いていて声をかけられるほどではなかった……ですね(笑)」 6月20日に決着した叡王戦五番勝負は互いに2勝ずつを奪って最終局に突入する、フルセットの激闘となった。伊藤叡王はこれが初のタイトル獲得となる。 「叡王戦の最終第5局は、終始苦しい将棋でした。特に101手目、藤井さんに王手飛車をかけられ自玉を逃がしたあたり。ただ、悪いなりに結果的には何とか粘る形を作ることができました」 伊藤叡王は5歳で将棋をはじめ、師匠の宮田利男八段(71)が師範をつとめる「三軒茶屋将棋倶楽部」で腕を磨いた。17歳の若さで四段に昇段し、プロデビューを果たした。それでも藤井七冠には、叡王戦の前まで公式戦で10連敗とまったく歯が立たなかった。 勝因を聞いても、叡王はどこまでも謙虚だった。 「苦しい場面で最善を尽くし続けられたことが結果につながったのかなと思います。今回、勝てたのは運が良かった。実力は藤井さんのほうがはっきり上なので、ライバルと言えるような立場ではないと思っています」 ただ、棋士たちの見方は違う。今回の結果を「大事件」と受け止める空気は少しもないのだ。 叡王戦五番勝負は全局(5局)、互いの角を序盤で交換する「角換わり」と呼ばれる戦型となった。絶対王者・藤井七冠の得意な戦法としても知られる「角換わり」を真正面から撃破した伊藤叡王の戦いぶりは、本格的な「藤井・伊藤時代」の到来を予感させた。 ◆まさに「将棋漬け」の日々 師匠の宮田八段も、愛弟子の快挙に目を細める。 「タイトルを獲得し、対局場所の山梨から東京に戻った翌日には、研究会で勉強していたというのだから恐れ入りますよ。私らの時代なら間違いなく酒盛りだったけど、時代は変わりました」 祝杯もあげずに研究を……たしかに三軒茶屋の「行きつけの店」を聞いても、叡王の口は重かった。 「いやあ特になくて……。あまり外出しないんですよ」 ただこの発言は”疑問手”だと宮田師匠は見ている。 「駅近くに、私とよく行くラーメン屋が2軒くらいありますよ。伊藤のサイン? ないない!(笑) タイトルこそ獲りましたが、まだまだ(知名度は)世田谷クラスです。これから東京の、そしてニッポンの伊藤になってほしいと思います」 藤井七冠に次ぐ棋界「序列2位」となった若武者がいま、新時代の扉を開こうとしている。 『FRIDAY』2024年7月19日号より
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