「極右」でも「極左」でもない「極・中道」。ヨーロッパで大きな問題となっている政治的潮流「エキストリーム・センター」の実態〈森元斎×ブレイディみかこ〉
「コメ騒動」の意義を教えない日本
森 日本はまったく教えないですよね。イギリスで女性の参政権が実現した1918年には、日本でも「コメ騒動」(※3)という民衆の抵抗運動がありました。あれは単にコメの価格高騰に怒った人々が暴れたというわけではなく、労働組合のようにきちんと組織化された抵抗運動でした。これは大正デモクラシーにもつながる重要な運動ですが、そういった意義は学校で教えられていません。 僕は『国道3号線 抵抗の民衆史』で取り上げましたが、コメ騒動って富山県の女性たちが最初に立ち上がったんです。つまり、イギリスでも日本でも女性がほぼ同時期に抵抗運動を起こしている。そんなことも教科書には書かれていません。だからこそ自分の本では、そういう「やむにやまれぬ事情の暴力」をちゃんと肯定的に書きたいと思いました。それで前は「コメ騒動」について書いたから、今回の本では「サフラジェット」について書いたんです。 話を戻すと、世界が「エキセン現象」に飲み込まれていく中で、抵抗運動を教えない日本はどうなっていくのか。以前、デヴィッド・グレーバーの翻訳者である酒井隆史さんに聞いてみたんですよ。そうしたら、「日本の政治はとっくに『エキセン』だから、誰も気づくことができないのでは?」と言われて、ずっこけそうになったことがあります。 たしかに今の日本に左翼政党はいません。立憲民主党の枝野幸男さんも、「右でも左でもなく前へ」と言っていた。まさに「エキセン」です。そりゃあ「コメ騒動」が評価されるわけない。 ただ、政党が「エキセン」ばかりになっても、地道に抵抗運動をしている人は世界にたくさんいます。「反対ばかりではよくない」「対立よりも中道だ」みたいな議論をしていると、結局は権力者にいいようにやられるだけです。 抵抗運動は決して無駄ではないし、歴史を前にも進めてきた。この本で取り上げた「サフラジェット」は、その実例なんです。 ※3:コメ騒動は日本のシベリア出兵に伴うコメ商人たちの投機によって起こったコメの価格高騰に抗議した民衆運動。江戸時代の打ちこわしとは違い、コメ不足が原因ではなく、当時の政権や資本家に対する批判の意味が強かった。 構成/小山田裕哉