佐藤健主演でドラマ化「グラスハート」の原作ってどんな話?いきなりプロデビューした女子高生の青春バンド物語【書評】
中高生の時、自分は特別な何かになりたいと思ったことはないだろうか。人と違う存在になりたいという願望と、そんなものになれるわけがないという現実を見る心の狭間で揺れ動く年頃。白馬の王子様が迎えに来てくれて、ハッピーエンドばんざぁい!なシンデレラストーリーに憧れる人もいるだろう。
『GLASS HEART (グラスハート)[GLASS HEARTシリーズ]』(若木未生/幻冬舎)は、王子様たちが姫を迎えに来るところからスタートする。しかし、心理描写が巧みな若木先生が描く姫や王子様は、個性たっぷりで一筋縄で行くはずはない。本シリーズは若木先生のライフワークと言える作品ですでに完結しているが、20年近くシリーズを愛し続ける根強いファンがいる人気作だ。音楽の才能に溢れる人々の内面を濃く描きつつ、恋愛要素も華を添える。
「問題はやりたいと思うか、心底やる気があるかどうかなんだよ!!」朱音はプロの世界に足を踏み入れていく
ある日突然、高校生の西条朱音(さいじょう・あかね)は、女を理由にバンドをクビにされる。しかしそんな失意の折にメジャーデビュー予定の別のバンドからいきなり「あのさ、あんた、うちでドラム叩く気ある?」とスカウトされる。そのバンドには、天才と言われる音楽家・藤谷直季(ふじたに・なおき)や朱音が大好きなギタリスト・高岡尚(たかおか・しょう)、新進気鋭のキーボード担当・坂本一至(さかもと・かずし)がいた。 いい男たちが朱音をぱっとみつけてくれたように思えるが、実際はそうではない。何本ものデモテープの中から、バンドに合う実力を見出されて選ばれたのだ。本人はそのことに全く気付かず、天才たちの中で必死に自分を確立していこうと奮闘する。1巻で朱音はがむしゃらにデビューに向けて突っ走るのだ。 バンドメンバーはそれぞれが才能に溢れているが、その分個性も爆発している。天才と言われるタイプの人たちは、行動が一般人には理解できないことがあるものだ。例えば、朱音がスカウトされてはじめて会う約束をした時も、現地には半分しかメンバーが揃わなかった。どうしたのかと電話をすれば、待ち合わせに来るはずだった人たちは、家でギターを鳴らしながら曲についての議論を受話器越しにふっかけてくる。その会話に朱音も入っていけるところを見ると、彼女もその天才メンバーの中に選ばれるべくして選ばれた人材なのだろう。