日本製鉄のUSスチール買収に米国社会は同意するか?「阻止する」トランプ、大統領選の争点にも
フィナンシャルタイムズ紙のフォルーハー副編集長が、1月15日付の論説‘America needs straight talk on trade’で、日鉄のUSスチール買収について慎重に検討すべき課題もある、問題はバイデン政権の貿易経済政策が不明確なことにある、経済につき同盟国ともっと率直な話をすべきだ、と述べている。主要点は、次の通り。 バイデンの貿易政策は、米国の労働者と米国の同盟国との狭間で正念場を迎える。大統領経済顧問のレイエル・ブレイナードは、日本製鉄によるUSスチール買収合意につき、「大統領はこの買収は国家安全保障と供給網の信頼性への潜在的な影響につき真剣な検討が必要であると考えている」と述べた。 自由貿易は補助金や国家安全保障上の利害がない平等な競争を前提とし、国家主導経済はそれとは全く反対の前提に立つ。日本は、中国と異なり国家が経済を運営する国ではない。しかし、この買収は規制当局(米外国投資委)に幾つかの課題を提起する。 日本は同盟国だが、日鉄の子会社は、多くの同盟国企業と同様に中国で事業をしている。米国の戦略的な分野でビジネスを行うために、同盟国は中国との事業に当たりどれだけ米国の国内政策に従う必要があるのかという問題がある。 さらに日本は自由市場経済だが、企業の間には相互の株式所有や取引上の系列システムがある(国内企業優遇の傾向も)。これが問題になり得る。 今の米政権は、貿易拡大法第232条の規定に基づき、長期的に国内の鉄鋼生産増大を約束している。アジアの多国籍企業がそれを本当に約束できるか。大自然災害や戦争により世界の供給網が崩壊した時、日鉄のUSスチールは、日米のどちらを優先するのか。 これらの問題はもちろん、合併が承認される場合には法的な合意によりうまく処理されるだろう。しかし、もっと深い問題がある。
バイデン政権の貿易政策は、一体何なのか。それは、トランプ復帰政権の政策と如何に違うのか。同盟国はそれを知りたい。 同盟国は、この点につき米国の説明がまちまちだと感じている。フレンド・ショアリングには、日本も含まれているはずだ。鉄鋼などの戦略的産業は、違うのか。あるいは、労働組合の結成を約束し、中国での事業を持たないことを約束すれば、承認されるのか。 なぜ、それがいまだ不明確なのか。一因は、政府関係者によりデカップリングの説明が違うことにある。 通商や安全保障分野の一部の者は、中国に対抗するために同盟国との間で新しい貿易協定を結びたい。他方、米通商代表部(USTR)のキャサリン・タイ等は、労働と環境に係る共通アプローチに基づく「ポストコロニアル」な貿易パラダイムを主張する。彼女達は、今の市場システムはこれらの問題を優先せず、世界貿易機関(WTO)等の機関はそれらの追求のために作られていない、と考えている。 政権内のポストネオリベラリスト達の主張には一理あるが、説明が不十分だ。バイデン政権は、自分達の政策を明確にする必要がある。 * * *