「シンプルに潰す」サッカーU-23日本代表はどう戦うべきか? 2試合から見えたパリ五輪出場を掴むための戦略【コラム】
サッカーU-23日本代表は25日、国際親善試合でU-23ウクライナ代表と対戦し、2-0で勝利を収めた。内容、結果ともに完全に上回られたU-23マリ代表戦から中2日で迎えたこの試合はパリ五輪出場をかけた4月のアジア最終予選(AFC U-23アジアカップ)に向けて、進むべき道が見えた試合だった。(取材・文:加藤健一) 【グループリーグ順位表】パリオリンピック(パリ五輪) 男子サッカー
●「危機感」から「絶望感」。完敗のU-23マリ代表戦から中2日… 15日のメンバー発表会見で、大岩剛監督とともに出席した山本昌邦ナショナルチームダイレクターは、厳しい言葉を並べた。4月に控えるパリ五輪アジア最終予選(AFC U-23アジアカップ)を「非常に過酷、厳しい予選」と表現し、「危機感しかありません」と述べた。 すでに五輪出場を決めているU-23マリ代表との一戦で、その危機感は絶望感に近いものに変わった。試合後の取材エリアを通る選手たちの多くは、うつむきながら反省の弁を述べている。川﨑颯太は「純粋に相手の一歩が大きかった」と身体能力の高さに驚き、山本理仁は「フォーメーション的にミスマッチが生まれて、そこに対応できなかった」と戦術的な敗因を分析していた。 U-23マリ代表戦から中2日で迎えたU-23ウクライナ代表戦で、大岩監督は山田楓喜を除く先発メンバー10人を変えている。メンバー発表会見で「今回26名の選手で戦いますので、全員プレーする機会を与えたい」と言っていた通り、21人がいずれかの試合で先発し、小見洋太と内野貴史、細谷真大は2試合ともに途中出場。田中聡はU-23ウクライナ代表戦の後半途中からピッチに立ち、最終的にはGK藤田和輝を除く25人がプレーすることになった。 前半は高い位置からプレスをかけてはめに行き、ボールを奪ってフィニッシュへつなげる場面が何度かあった。ただ、剥がされて疑似カウンターのように攻め込まれるシーンもあったので、うまくいっていたと言い切ることは難しい。松木玖生も「前からのプレスがなかなかうまくいっていないという雰囲気だった」と明かしていた。 迎えた後半はプレスに連動性が生まれ、2、3人の関係ではなく、全体でボール方向にプッシュする意識が強くなった。そんな中で得たCKから佐藤恵允が押し込んで先制点を奪った。 そして、今後の戦いにおけるヒントは、その後の時間帯になるだろう。危機感が絶望感に、そしてその中に少しばかりの希望が垣間見えた。 ●松木玖生「自分とすごく似ている」 67分に荒木遼太郎に代わって田中がピッチに入る。守備時は2トップの一角、攻撃時はインサイドハーフの役割を担っていた荒木のところに松木がスライドし、田中は松木が担っていたタスクを引き継いだ。 ゴール前での創造性やフィニッシュの部分で特徴を出せる荒木に代わり、中盤でのデュエルや推進力に長ける田中が入ったことでチームの目指す方向性は定まった。田中は所属する湘南ベルマーレで[3-5-2]のアンカー、もしくは[4-4-2]のボランチを務めているが、この日は藤田譲瑠チマが下がり目の位置でバランスを取っていたので、田中は普段より高い位置で縦横無尽に動いて特徴を出しやすい環境ができていた。 田中がピッチに入って10分弱で追加点が生まれる。ボールを失った佐藤が素早い攻守の切り替えでボールを奪い返し、細谷真大へパスを供給する。これは相手DFのスライディングに阻まれたが、ルーズボールを拾った田中が左へ持ち出して聞き足の左足を振り抜いた。 「聡君のボールを狩る特徴は自分とすごく似ているし、追加点が欲しいところで得点を決めてくれたので、とても頼もしい存在だった」 松木が言うように、ボールを狩るという田中の特徴がゴールという形で結実した。奇しくもこのゴールに絡んだ佐藤も攻撃的なポジションの選手でありながら「自分自身は守備も得意としている」と自認する。ブレーメンのセカンドチームに在籍し、トップチームのベンチ入りも経験した佐藤は「ブンデスリーガの強度に触れて、自分自身のプレーエリアが以前に比べて格段に広くなった」と守備面での成長を実感していた。 前半はプレッシング(守から攻への切り替え)とビルドアップへの意識が強かったが、後半に入るとボールロスト後のカウンタープレスへの移行がスムーズになった。相手の運動量が落ちてきた部分は確かにあったが、コンパクトな陣形で相手陣内に押し込むことができるようになったのは明確な変化だった。松木も「後半は修正できたのでよかった」と振り返っている。 似たような部分は完敗したU-23マリ代表戦にもあった。失点につながるミスを犯した川﨑の言葉が、今後の戦いのヒントになるかもしれない。 ●この2試合から見えたU-23日本代表の強み 「前にエネルギーが出せるようになったと思いますし、ビルドアップとかで頭がいっぱいにならず、シンプルに潰すとか、前に出るっていう頭に切り替えられた」 U-23マリ代表戦では山本と川﨑が中盤に並んだ。前半は川﨑がアンカーで山本が前目という役割分担だったが、後半からその役割を入れ替えている。「前にエネルギーが出せるようになった」というのは、ポジションを入れ替えた後半を振り返った際の話である。 川﨑自身も所属する京都サンガで昨季まではアンカーを務めることが多かったが、今季はインサイドハーフが主戦場になっており、4試合で2得点を挙げるなど、アタッキングサードでフィニッシュに絡む仕事が増えている。 もちろん、冒頭の山本の言葉のように、U-23マリ代表戦の苦戦はフォーメーション的な嚙み合わせに依る部分もあるが、ボール奪取能力と推進力に長ける川﨑がポジションを前に移したことが流れを引き寄せたと側面も確かにある。大岩ジャパンは最終ラインからのビルドアップにこだわりを持ってトライしてきたが、川﨑や田中が高い位置から圧力をかける形がこの2試合では有効だった。 アジア最終予選で3位以内に入るか、4位になってアフリカ勢との大陸間プレーオフを勝ち抜かなければ、パリ五輪出場の可能性はついえる。厳しいアジア予選で勝ち抜くためにこの2試合から考えるべきは、選手の特性をチームの戦い方に反映させていく必要性だ。 ●荒木遼太郎を外して…。絶望から見出す希望 4月のアジア最終予選はインターナショナルマッチウィークではないので、海外組を全員招集することはできない。トップチームではない佐藤や小久保玲央ブライアン、シントトロイデンの一部選手など、招集できる見込みのあるのは一部で、斉藤光毅らこの世代の中心的なメンバーなしで予選を戦わなければならない。 最終予選のメンバーは今回から大きく変わることはなさそうだ。メンバー構成を見ると、得点力のあるウイングは候補者の頭数が限られるが、細谷真大、藤尾翔太、染野唯月など1トップでプレーできる選手は多く、中盤は田中や川﨑、松木などデュエルに強い選手が多い。また、所属クラブを見ると、ボール保持を基調とするクラブは多くなく、組織的なプレッシングやショートカウンターを得意とするクラブが多い。 田中や川﨑が中盤の底ではなく、やや高い位置で特徴を発揮できることが分かった。中盤の底にはベルギーリーグでプレーし、海外経験も豊富な藤田や山本が適任だろう。もちろん、どの局面でも平均点を超えられる松木もメンバーに入ってくるはずだ。 荒木らをスタートから使うのではなく、強度の高い守備で敵陣に押し込んでいくサッカーをキックオフからフルパワーで行い、間延びする後半に小見や平河悠といった打開力のあるウインガーや、荒木のような創造力のある選手を投入するのは有効打になるだろう。この日のように田中を後半から入れて守備強度を1段階上げるのもいい。 U-23マリ代表戦は絶望だったが、2試合を通してみると小さな希望は確かにあった。大岩ジャパンはチームコンセプトを大事にしながら強化を進めてきたが、代表チームは補強ができないので、いるメンバーで戦力を最大化しなければならない。果たして、この2試合からどのようなヒントを得るのだろうか。 (取材・文:加藤健一)
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