袴田さん弁護団「DNA型鑑定結果は無罪の証明に」 検察は否定 再審第13回公判
現在の静岡市清水区で1966年、みそ製造会社の専務一家4人を殺害したとして死刑が確定した袴田巌さん(88)の再審第13回公判が17日、静岡地裁(国井恒志裁判長)で開かれた。犯行着衣とされる「5点の衣類」のうち、白色半袖シャツに付着した血痕と袴田さんのDNA型は「一致しない」と結論づけた鑑定について、弁護団は高い信頼性があるとして「無罪を証明すると同時に、衣類が捏造(ねつぞう)されたことを強く示唆する」と主張。一方、検察側は「鑑定結果は信用できず、犯行着衣ではないことを示す証拠とはなり得ない」と対立した。 DNA型鑑定を手がけたのは、弁護団が推薦した本田克也筑波大教授(当時、現名誉教授)。再審開始を認め、袴田さんを釈放した2014年の静岡地裁決定の大きな原動力となった。 弁護団は冒頭陳述で、本田鑑定について「多くの事実や証拠との総合評価により、衣類が捏造証拠であることを動揺の余地なく裏づけている」と指摘。その上で、信頼性が担保された機器や検査キットをマニュアルに従って使用したことなどを強調した。再審請求審で検察側がとりわけ批判した血液由来のDNAを抽出するための「細胞選択的抽出法」については、「裁判所からの鑑定事項にできる限り誠実に応えようと考案した」と経緯を説明。「真に科学的な批判か否かが、慎重に見極められなければならない」と訴えかけた。 検察側は、5点の衣類は古く、みそにも漬かっていたとして「血液由来のDNAは劣化が甚だしく、そもそも鑑定困難」と述べた。さらに、捜査や裁判の過程で唾液といった血液以外の生体試料が付着する機会が多くあったと問題視。細胞選択的抽出法は血液由来のDNAを「効果的に抽出する手法とは言えない」と批判し、鑑定が由来不明のDNAなどを評価した可能性が「極めて高い」とした。 ■弁護団「地裁は逃げずに判断を」 「きちんと判断してほしい」ー。再審第13回公判終了後の記者会見で、弁護団の伊豆田悦義弁護士は、DNA型鑑定に関する冒頭陳述に込めた思いを語った。 第2次再審請求審で、再審開始を認めて袴田さんを釈放した2014年の静岡地裁決定は、弁護団が推薦した筑波大の本田克也教授(当時、現名誉教授)が手がけたDNA型鑑定について、手法や説明を「全てが全面的に信用できるとまでは判断していない」としつつ、批判的な検討を加味しても「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」と捉えた。 一方、地裁決定を取り消した18年の東京高裁決定は本田鑑定の証拠価値を否定した。審理を差し戻した20年の最高裁決定では、裁判官5人のうちの2人が反対意見で「再審を開始すべき合理的な疑いを生じさせる新証拠」と評価していた。 その後の差し戻し審では「5点の衣類」についた血痕の「色問題」がテーマになったこともあり、検察側の即時抗告を棄却した23年の東京高裁決定は本田鑑定について判断しなかった。 再審公判で弁護団は、本田鑑定を「かつての裁判所が抱いていたであろう『捏造などあり得ない』といった偏見や思い込みを打ち砕いた」と強調。弁護団の一員で、元裁判官の水野智幸弁護士は会見で「きょうの主張・立証を見れば、裁判所は判断することから逃げられないと思う」とした。
静岡新聞社