ハリウッド大注目の映画監督「HIKARI」とは? 「アイドル主演なら金を出す」と言われることも...
次作も新たなジャンルへ
長編映画監督デビュー作は、19年の『37セカンズ』。舞台は東京で、主人公ユマは障害があり、車椅子で生活する20代前半の女性。 漫画を描くのが得意なユマは、アダルトコミックの編集部に作品を持ち込むが、自身に体験がないことをすぐに見抜かれてしまう。そこから冒険に出た彼女は、新たな人たちと出会い、少しずつ自分を見つけていく。主演はオーディションで発見した、実際に障害がある佳山明。 「アメリカは障害がある人たちにそう悲観的ではないけれど、日本にはおもてなしの文化があり、優しい人たちがいる一方で、自分の知らない世界には立ち入らない、分からない人は助けないという雰囲気があるじゃないですか。これは世界に通じる話だけれど、日本に対するメッセージとも考え、日本で撮影しようと思ったんです。でも難しかったですよ。アイドル(を主役にする)ならお金を出すとも言われましたが、それは絶対にやりたくなかった。オーディションの結果、良い人が見つからなかったら女優さんを探すとしても、しっかりお芝居ができる人しかこの役は難しいですし。幸い明ちゃんに出会え、NHKがテレビ放映権を買ってくれることに。脚本で主人公は下半身不随の女性でしたが、明ちゃんは脳性麻痺なので書き直しました」 この映画は19年のベルリン国際映画祭で、パノラマ部門の観客賞を受賞した。その後、アンセル・エルゴート、渡辺謙が出演するMaxのドラマ『TOKYO VICE』で2話を監督。 第1話を含む3話の監督をオファーされた23年のネットフリックスドラマ『BEEF/ビーフ~逆上~』も、エミー賞を含む多数のアワードで複数部門を制覇するなど高い評価を受けた。 『TOKYO VICE』は犯罪スリラー、『BEEF』はコメディーとまるで違うタイプの作品だ。『レンタル・ファミリー』の次は、これまた新たなジャンルの作品が決まっている。 「1つは、私自身がユタ州に高校留学した時の体験にインスピレーションを得た『Made in Utah』というテレビシリーズ。これはドラマディー(笑いの要素もあるドラマ)ですね。もう1つは『Dan and Sam』というタイトルの長編映画。幽霊が関係するラブストーリーで、いま脚本を書いてもらっているところ。やってみたいことは、本当にいっぱいあります。やったことがないからやってみたいという、好奇心かな。それに、いろんな人といろんな環境で仕事をしていくことで、監督として学べることもあるだろうと思うし」 円安、賃金安が続き、海外に目を向ける日本の若者も多い。国際的に活躍する彼女が彼らに送るアドバイスは──。 「まずは選挙に行きましょう。自分たちの将来を変えるために。その上で海外に出たいなら、具体的に何がしたくて、なぜその国が良いのかを考えて。今はワーキングホリデー制度が充実していて、昔よりもいろいろな国に行けます。ワーホリでイギリスやカナダの映画の現場に入れるかも。世界を見て、その結果、やはり日本がいいなと思えば帰ってくればいい。1年なんて、人生では一瞬ですからね」
猿渡由紀(ロサンゼルス在住映画ジャーナリスト)