【クレーンゲームでわかる物理学】箱型の景品を転倒させてゲットする「黄金力学」とは
図表32は、フィールド上にプライズが置かれた様子を横から見たものです。辺OBを、プライズの1つの角Oを中心軸に左回りさせて、プライズを転倒させたい場合、一つの方策として「プライズの右側上方Aの位置に力FAを左向きに作用させる」というやり方が考えられます。 FAの大きさが十分で、かつOがフィールド上を滑らなければ、前掲した図表31(d)のように、重心GがOを通る鉛直線を越えて、プライズは左側に転倒します。FAの大きさが不十分ならば、Gが鉛直線を越えられず、元の安定な位置に戻ります。 ● 物体を回転させるはたらき 「力のモーメント」 その他の方策として、図表32のBの位置にアームのシャベルを入れて力FBで持ち上げて、プライズを左側に転倒させるやり方も考えられます。 さらに、図表32内の写真のようなPPフック(シャベルを入れる穴の開いたプラスチック板)がプライズに貼られていたのなら、PPフックの(図表32内)Cの位置にシャベルを引っ掛け、アームが閉じるときの力FCやUFOメカが下方向に降りていくときの力FDを利用しても、プライズを左回りに転倒させる可能性がありますね。 突然ですが読者の皆さん、テーブルの上にある小さな箱を指で弾くときの箱の動きを想像してみてください。弾く位置(力が作用する位置)の違いで、箱はテーブル上を並進運動したり、回転運動したり、その両方が起きたりしますよね。 このように、物体を回転(転倒も含みます)させる力のはたらきを、物理の世界では「力のモーメント」と呼びます。 力のモーメントを、より想像がつきやすい「回転ドア」を例に説明しましょう。
図表33(a)に、回転ドアを上から見た概略図を示します。ここでは、回転軸Oの周りに4枚のとても重いドアが角度90度おきに付けられているとします。 それぞれのドアには、Oから遠い位置Aと近い位置Bに、ドアを手で押すためのプレートが設置されているとします。 できるだけ楽をして(弱い力で)ドアを回転させて通り抜けたい場合、AとBのどちらを押して回転ドアを回すのが良いでしょうか? ● 楽に回転させるにはどうしたらいいか 力のモーメント=うでの長さ×力 私ならAを手で押して(力を与えて)、回転ドアを左回りに回して通り抜けます。Bを押すよりもAを押した方が、弱い力で済み、楽だからです。 さらに図表33(b)をご覧ください。Aを押して、ドアに左回りの回転を与える場合、皆さんなら図中の(1)、(2)、(3)のうちどの方向に力を作用させますか? 私なら(2)の方向に力を加えて、ドアを回転させます。ドアに対して90度の角度に力を加えた方がやはり楽だからです。ドアを回転させるには、力の方向をドアに対して直角にした方が、弱い力で済むからです。(1)の方向は、(2)の方向より強い力が必要です。(3)の方向に力をかけても、ドアは回転しそうにないですよね。 結局、回転ドアを楽して(弱い力で)回転させるには、回転軸から遠い位置に、ドアに対して垂直に力を作用させた方が良いことがわかります。これが、物体を回転させようとする力のはたらき、力のモーメントです。 図表33(b)の状態で、力が(2)の向きに作用しているとき、回転軸Oと力点Aとの距離を、高校の物理の教科書では「うでの長さ」ともいいます。そして、物体を回転させようとするはたらきである力のモーメントは、(うでの長さ)×(力)で表すことができます。回転ドアだけではなく、オフィスや一般家庭にある普通のドアも同じ仕組みですね。ドアノブがドアの回転軸である蝶番から遠い位置(うでの長い位置)にあるのも、理にかなっているのです。 さて、話をプライズ(大きさのある物体)の転倒に戻しましょう。図表32で示したプライズの転倒も、回転運動の一つです。プライズの回転軸(1つの角)から、うでの長い位置に対し、うでの方向と垂直に力をかけることができれば、容易に(弱い力で)プライズを転倒させることができます。力のモーメントの観点からは、図中の力点Oから距離の遠いPPフックのCの位置にシャベルを引っかけて外力FCを作用させた方が、Oを中心とする回転運動に有利であるといえますね。
小山佳一