「好きすぎて刺した」あのホスト殺人未遂事件が映画に!?気鋭の映画監督の目に歌舞伎町はどう映るか
「好きで好きで仕方なかった」 こんな供述で一躍話題となった、’19年の新宿ホスト殺人未遂事件。現役ホストが指名客の女性に刺されるという衝撃的なこの事件にインスパイアされた”愛”の映画『熱のあとに』が2月2日に公開された。 「クソガキよぉ」「舐めてんなよ!」…歌舞伎町で女性がカッターで「ホスト刺傷事件」衝撃の現場写真 ホストを刺した主人公である沙苗を演じるのは橋本愛(28)、彼女の夫、健太役は仲野太賀(31)。豪華俳優陣で創られた本作は、歌舞伎町でも公開前から話題となっていた。気鋭の監督、山本英(あきら)(32)はなぜこの事件を題材に映画を創ろうと思ったのか。本人に話を聞いた。 「歌舞伎町を訪れたとき、『人が過ぎ去っていく街』という印象を受けました。新宿は長く留まれる街じゃないんだな、と。今はずっと通い詰めていても、大半の人は数年後にはいなくなってしまう。ホストやトー横キッズと呼ばれている方もまた違うどこかに向かっていくのかなと」 お金と愛が結びつく街、歌舞伎町。そのいびつな関係は時に揶揄(やゆ)されがちだが、山本はそれを悲劇的に描いていない。 「お金を使って誰かに捧げていくことは、昔の文学にも用いられてきました。『グレート・ギャツビー』のギャツビーも愛する女性のために金銭を注ぎ込み愛を形にします。そうした文化は若者特有でも、今の時代的なものでもなく、普遍的にあるものだと思うんです」 筆者の最もお気に入りのシーンは、沙苗が夫である健太に「ホストに騙(だま)されて身体売って貢がされていたんだろ」と激昂されるシーン。沙苗はただ一言、「騙されてないよ」と顔色一つ変えずに返答するのだ。試写会では、観に来ていた大半のおじさんがこのシーンに驚き、座り直していた。 筆者は思わず笑ってしまったのだが、実際にホストに通う女性たちはホストに「騙された」わけではなく、すべてわかったうえで大金を投じているケースが多い。 出会ったホストなら誰にでも大金を投じるわけではなく、「その人だからこそ風俗までできたし、ここまで稼げた」といった言動は、沙苗同様多くの″ホス狂い″に見受けられる。実際に今、ホストに通う女性たちに、この映画をどう観てほしいのか。 「誰のことをどれほど愛しているかはその人にしか分からない。それは辛く悲しいけど、映画を通してその気持ちを少しでも共有できたら嬉しいですね」 沙苗が狂気的で純粋な、ある意味生活感のない愛をぶつける一方で、そんな愛を受け止めるホスト側・隼人は、愛が分からない人間なのだという。だからこそ彼女の愛を受け止めきれたのかもしれない。 本作は’19年の事件の実写化ではなく、あくまでインスパイアされたにすぎないため、主人公がホストを刺してから6年後の日常を中心に描かれている。ホストを刺すほどの愛、身体を売って貢ぐほどの愛。その対極にある今の夫との平穏な生活。かなり複雑な内容だが、歌舞伎町のホス狂女子たちは本作の公開を楽しみにしていたという。 「担当と観に行ってきます。この映画の感想を聞けば、彼がホストという仕事と私との関係をどう考えているのかな、とかそういう価値観が見える気がするので」(マコ・仮名・26) 「人を愛する」ということについて考えさせられるこの作品。ホストだけではなく、不倫でも二次元でも、何かしら世間のいう「普通の幸せ」からズレた愛を育(はぐく)んだ経験がある人に観てほしい作品だとも言える。バレンタインも近い今、『熱のあとに』をキッカケに愛について考えてみてはどうだろうか。 『FRIDAY』2024年2月23日号より 取材・文:佐々木チワワ ’00年、東京生まれ。小学校から高校まで都内の一貫校に通った後、慶應義塾大に進学。15歳から歌舞伎町に通っており、幅広い人脈を持つ。本連載をまとめた新刊『ホスト!立ちんぼ!トー横!オーバードーズな人たち』(講談社)が2月28日に発売予定
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