幸せの国ブータンの食卓で見た「幸せの現実」、ブータン人が「毎日同じ夕食でも幸せ」と話す深い意味
ブータンにおける仏教思想で重要な概念として、京都大学の熊谷誠慈准教授は「輪廻」を挙げている。輪廻とは、苦しみに満ちたこの世で生まれ変わりを続けること。仏教に基づく究極的な幸福は、この輪廻を外れた「涅槃」に至ることであり、これこそがブータン仏教徒たちの目指す最終目的地であるとされる。 地位や富や名誉は、現世において確かに重要だ。それを認めた上で、ただし究極的なものではなく、それを追い求めると執着を生んで逆に不幸になると言う。
これをGNH的文脈に置いてみると、「経済的に豊かになることは大事でないとは言わないけれど、それだけを追い求めてガツガツするときりがないし決して満たされることはないから、物質的なことばかりに執着せず精神の平穏を目指そう」と言い換えられる。 ②地形的・政策的閉鎖性 ブータンを地図で見ると、険しいヒマラヤの山中にあり、北は中国と南はインドという2つの超大国に挟まれている。しかもチベットと接する中国側国境は、ダライラマ14世亡命以降閉じていて、現在はインド側が唯一の陸路国境だ。簡単に行ける土地ではないこともあり、外界と隔離されてきた。
地形的な閉鎖性に加えて、政治的にも1970年代まで鎖国政策をとっていた。外国人が旅行できるようになったのは1974年、インターネットとテレビが解禁されたのが1999年。最近だ。 鎖国政策の目的は、強大な隣国からの影響を避け、自国固有の文化や伝統を守ることであった。この政策から転換したいまも、公式な場では伝統衣装を着用し、一般家屋も伝統的な建築様式を守り、学校では国語であるゾンカ語を教えることが義務付けられている。
これをGNH的文脈に位置付けると、「比較するものがなければ、限りない欲望にまみれることもなく、満足を感じやすい」と理解できる。皆がゾンカを着て、エマダツィを食べて、伝統家屋に住み、衣食住すべて同じようだったら「もっと豊かになりたい!」などと思う機会もないだろう。 ブータン研究を長年行ってきた今枝由郎氏は、ブータン人気質を「かつて一度も外国の支配下に入ったことがなく、頑なに鎖国を続けてきたために、外国人に対して何らの偏見もコンプレックスも持たない。自尊心を失うことなく、かといって肩肘張ることもなく、ブータン人はあるがままにブータン人自身である」と記している。