Z世代は「消滅可能性自治体」リストをどう受けとめたか
人口減少ってそもそも問題?
――「人口ビジョン」では人口減少が「国難」とされていますが、皆さんの感覚としてはいかがですか。 古井》課題なのは事実ですが、子どもを持つか否かは個人の価値観の問題で、他人がどうこうできるものではないように思います。子育て支援政策をめぐる議論がいつも腑に落ちない原因はそこにある。 能條》私は少子化や人口減少を最大の国難だとは思っていません。そもそもこの小さな日本列島に1億人以上も暮らせるのは、外国から資源を持ってきているから。国内で手に入る資源で暮らしていこうと思えば、人口はもっと少なくなるはずです。それよりは、気候変動の加速で2100年までに平均気温は3度上昇、海抜が1メートル上がり、日本の国土で沈んでしまう地域も出てくるかもしれない。そうした問題の方がずっと深刻ではないでしょうか。 あえて言うなら、少子化を議論する場に、その当事者である若者がほとんどいないどころか、それが問題だと思わず、有効な策が打てないまま時間が経過していることこそが、国難だと感じます。 大空》僕も少子化は問題であるとはいえ、政策としては先にやるべきことがもっとあると思います。 たとえば、昨年だけで513人の小中高生が自殺していて、過去最多となった2022年の514人から高止まりしています。出生数が向上したとしても、生まれてきた子が自ら命を絶ってしまうような社会でいいのか。生まれてきた子どもたちが生きたいと思えるような社会を築いてから、結果的に子どもが増える、というのが健全な順番だし、それこそが民主主義国家における政治の役割のはず。こうした哲学が欠けてしまっていることが問題です。
こんなに不安でどうやって産むの?
――子どもを持つことを望む若い世代が減っている一番の理由は何だと思いますか。 大空》「結婚したくない、子どもを持ちたくない若者像」が定型化されることで、さらなる社会的抑圧と分断を生み出しているからではないでしょうか。子どもを望まない人はいつの時代も一定数いて、それは個人の選択とされていたのに、今では「負け組」感が強調され、「結婚できる人/できない人」「子どもを持てる人/持てない人」という分断が強化されてしまっているように思います。 能條》東京一極集中は確実に影響していると思います。首都圏は子どもを産み育てやすい環境ではないのに、人口が集中している。これだけ生活費が高いと、子どもを持ちたいけれど踏み切れない気持ちも分かります。だからといって、東京には仕事もあるし、地方における女性の生きづらさを考えると東京から離れることもできない。 それに選択的夫婦別姓など、実行すれば出生率が確実に上がりそうな政策が目の前にあるのに、政府はやりませんしね。政策をつくる人たちの中に都合のいい若者像・家庭像があって、そこから外れる意見や要望を聞かないのです。 古井》僕はやっぱり不安が大きいことがあると思います。子育てに対して、ネガティブなイメージがポジティブなそれを上回ってしまっている。マイナビの調査によれば、経済的不安を感じる20代女性は8割をこえていて、それが子どもを持てないと考える一因にもなっている。じゃあいくらあればいいのかと言われると、天井がない。物価も教育費も上がっている。不安を煽られているので、いくらあっても安心できません。 大空》僕たち3人は以前から面識がありますが、実は古井さんが結婚して、お子さんを持たれたのはすごいなと感心しているんです。僕にその決断はできません。僕は自分が経験した不幸を再現してしまうことが怖いんです。過去や今が肯定できない自分の人生を我が子が再現してしまったらどうしよう、と考えてしまう。 古井》それは分かる。僕自身、お金のない家に育ったから、我が子にはお金で困らせたくないという気持ちが強くて、将来のための資金をどこまでも貯めようとしてしまう。 大空》僕も、もし子どもから「インターナショナルスクールに行きたい」とか「留学したい」と言われたらどうしようと考えてしまう。普段から「自分らしさ」が大事と言っているのに、社会で標準化された「幸せな人生」から我が子が外れることをよしとする勇気はない。 古井》子どもができると、それまでの社会に対する考えがブレるんだよね。頑張って会社を大きくしてきたはずなのに、「まだ頑張らなきゃいけないの!?」と思ってしまう。(笑) 能條》私は地元が神奈川で、ありがたいことにごく普通のサラリーマン家庭で呑気に育って十分幸せだったので、大金持ちにならなくても、このまま健康なら人生なんとかなると思える特権性があると感じます。 でも都内で子育てするとなったら事情が違う気がする。自分の子どもを大金持ちにしたいとは思わないけれど、周りと同じかちょっといい暮らしをさせたいと思った時の選択肢が、大企業に入るとかそういったルートに限られてしまっている。それ以外を選択しても幸せになれる社会をつくらない限り、人口は都市に集中し続けるし、子どもを産むことが不安なままです。 (『中央公論』2024年7月号より抜粋) 構成:髙松夕佳 撮影:種子貴之 大空幸星(NPO法人あなたのいばしょ理事長)×能條桃子(一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN代表理事)×古井康介(株式会社POTETO Media代表取締役社長) ◆大空幸星〔おおぞらこうき〕 1998年愛媛県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。2020年にNPO法人あなたのいばしょを設立。こども家庭審議会こどもの居場所部会委員などを務める。著書に『望まない孤独』など。 ◆能條桃子〔のうじょうももこ〕 1998年生まれ。神奈川県出身。慶應義塾大学大学院経済学研究科修士課程修了。2019年に日本のU30世代の政治参加を促進する一般社団法人NO YOUTH NO JAPANを設立。22年にFIFTYS PROJECTを設立。 ◆古井康介〔ふるいこうすけ〕 1995年富山県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。在学中にアメリカ大統領選挙を現地取材し、政治の発信をサポートする事業を帰国後に開始。2017年に株式会社POTETO Media設立。