パリオリンピック・パラリンピックを前に東京大会のレガシーを考える
多様な価値
大会後の一般利用は順次始まった。例えば夢の島アーチェリー場では2021年10月に開業し、初日にはタッチラグビーやフライングディスクの体験教室が行われた。その後も広大な芝生エリアを生かして音楽会が企画され、イベントや大会のない日は一般に開放されて自由に遊べるなど、多角的に憩いの場を提供している。東京湾の美しい景観を誇る海の森水上競技場では2本のポールを地面について散歩する「ノルディックウオーキング」やヨガ、ボードの上に立ちパドルでこぐ「スタンドアップパドルボード(SUP)」の体験会が開かれている。一般利用の開始に当たっては、小池百合子・東京都知事が次のようなビデオメッセージを寄せた。「音楽などを楽しむエンターテインメント空間としても新しい感動や多様な価値をお届けしてまいります」と訴えかけた。 こうした動きを、東京都スポーツ文化事業団の施策が後押ししている。施設の魅力を存分に発信し、認知度やブランド力の向上をサポートしているのが、デジタルガイドブック「18FACILITIES」。東京体育館や有明テニスの森公園テニス施設などを含めた都立 の18スポーツ施設について、写真をふんだんに掲載しながら特長を紹介。スポーツの実施場所や会議室などの詳細やアクセス方法、利用料金、問い合わせ先といった基本情報はもちろん、併設レストランなど利用者が興味を引きそうなおすすめ情報も添えられている。 「TOKYOスポーツ施設コンシェルジュ」も設けている。これは都立スポーツ施設でスポーツイベントやコンサート、展示会などを開きたい場合や各施設情報を知りたい場合などに便利な窓口といえる。メールや電話で連絡すると、コンシェルジュが各施設の間に立って調整。有効な情報をスムーズに得やすくなる。都側からユーザーに積極的に手を差し伸べる方策は斬新といえる。
花の都を追い風に
実際に現地に一般市民を導いて楽しさの体感につなげるという意味では、アーバンスポーツ体験プログラムの企画が魅力的。今年度は6回の実施を予定している。都立スポーツ施設にて初心者向けのスケートボード、スラックライン、BMX、ブレイクダンス等の体験教室が企画され、スポーツへの親近感向上を図る。「スポーツフィールド東京」の実現に向け、各所で活動が継続している。 今夏のパリ五輪は、都立スポーツ施設に一層の関心が集まるきっかけになりそうなビッグイベントだ。〝花の都〟では1900年、1924年以来、実に1世紀ぶり3度目のスポーツの祭典。今回は特に、市中心部コンコルド広場でブレイキンをはじめとする都市型スポーツ、エッフェル塔の特設会場でビーチバレー、ベルサイユ宮殿では馬術など、風光明媚な会場も大きな見どころの一つだ。ブレイキン男子の世界的強豪で、パリ五輪代表の半井重幸(SHIGEKIX)=第一生命保険=は「パリ五輪で活躍したいという気持ちは、一つの大きなエネルギー源」と頼もしく語る。日本の五輪熱は高く、列島一体となったフィーバーぶりが予想される。メディアを通じて競技風景を見た人たちが触発され、今一度、東京大会のレガシーに目が向いてもおかしくはない。 東京オリンピック・パラリンピックの前には新しい国立競技場の建設費など、とかくコスト面のネガティブな情報がクローズアップされていた。しかし後に残った建築物は、東京都の多彩な活性化策もあって存在感が出てきている。新規6施設に約1375億円をかけた予算は決して無駄ではないだろう。〝体験=プライスレス〟との構図がある限り、スポーツ都市としてのTOKYOに連動していくに違いない。
VictorySportsNews編集部