土方歳三はなぜ愛される? 『ゴールデンカムイ』で舘ひろしが担う新たなキャラクター像
実写版『ゴールデンカムイ』が封切りとなる。非常に多くのファンを持つ人気マンガの実写化だ。「映画化決定!」と第一報が出た際にはさまざまな声が上がったものだが、出演者とそのビジュアルが発表されるたび、期待の声のほうが多く聞こえるようになった。 【写真】映画『ゴールデンカムイ』キャラクターが集結するポスタービジュアル そんな本作には、あの土方歳三が登場する。演じるのは舘ひろしだ。これまでにも数多くの作品に登場してきた土方歳三とは、いったい何者なのか。歴史にその名を刻んだ彼の人物像や、近年の映画・ドラマでの存在に触れつつ、映画『ゴールデンカムイ』における期待を述べてみたい。 本作は、明治時代末期の北海道を舞台にしたサバイバルアクション。アイヌの莫大な埋蔵金をめぐって、山﨑賢人が演じる主人公・杉元佐一たちの途方もない旅と壮絶な戦いが繰り広げられる。土方歳三も埋蔵金を狙う者のひとりだ。 歴史上の土方といえば、幕末に活躍した新選組のナンバーツー(副長)。組織の統率のため、厳し過ぎる隊規・局中法度によって隊士たちをコントロールしていた彼は、「鬼の副長」として知られている。司馬遼太郎の『燃えよ剣』は土方の生涯を描いたもので、彼の主観によって激動の幕末を描いている作品だ。つねに冷静な思考と鋭い批評眼を持ったその策士ぶりからは、土方こそが新選組の実質的なトップなのではないかと思わずにはいられない。 数々の死線をくぐりぬけ、戊辰戦争では旧幕府軍側の指揮官のひとりとして前線を駆け続けたが、函館の五稜郭で最期を遂げた。しかし、もしも土方のような人物が明治という新しい時代まで生き続けていたら……。『ゴールデンカムイ』では土方のこの「if=もしも」の姿を描いているのだ。新選組の隊士の中でもっとも長生きしたとされる永倉新八とともに、彼もアイヌの埋蔵金を追うのである。 近年、土方歳三を演じた俳優として記憶に新しいのは岡田准一で間違いないだろう。司馬の『燃えよ剣』を実写化した作品で土方を演じたのだ。新選組ファンにとって『燃えよ剣』はバイブルであり、岡田が立ち上げた冷徹で硬派な土方像は私たちのイメージを体現したような理想どおりのもの。「これぞ土方歳三だ!」と叫んだのは私だけではないだろう。 それから『燃えよ剣』が公開された2021年には大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合)で町田啓太が、『土方のスマホ』(NHK総合)では窪田正孝が、『るろうに剣心 最終章 The Beginning』では和田聰宏が、2022年には『幕末相棒伝』(NHK総合)で向井理が土方を演じている。土方だらけだ。 さかのぼってみれば、映画『銀魂』シリーズ(2017年~2018年)では柳楽優弥が土方をモデルとしたキャラクターを演じており、2007年放送の『輪違屋糸里~女たちの新選組~』(TBS系)では伊藤英明が土方役に配されていた。錚々たる顔ぶれ。幕末期に活躍した人物の中でもとくに人気が高い土方は、そう誰にでも演じられるものではない。俳優には名実どちらも求められる。 そんな“土方俳優”の中でも評価が高いのが、大河ドラマ『新選組!』(NHK総合)と朝ドラ『あさが来た』(NHK総合)で土方を演じた山本耕史ではないだろうか。厳格でありながらもどこか洒落っ気のある土方像は、これまた「これぞ土方歳三だ!」と叫ばずにはいられないものだった。『新選組!』に出演していた頃の山本はまだ20代後半。年齢的にもぴったりだった。 そう、ここまでに挙げた俳優の並びから分かることがある。土方は30代半ばでこの世を去った。つまり、比較的若い者にしか演じられないわけだ。ふつうならば舘ひろしが土方を演じるなど考えられない。ところが、『ゴールデンカムイ』は土方の「if=もしも」の姿を描いている。俳優として50年近いキャリアのある舘にしか立ち上げられない土方歳三が誕生するはずだ。
折田侑駿