大谷に“なりすまし”てまで280億円をつぎ込んだ水原氏は「二重人格」なのか 精神科医は「依存症は夫婦でも見抜けないことが多い」
ドジャースの大谷翔平選手の元通訳・水原一平氏の違法賭博問題に、急展開があった。米連邦検察は日本時間の12日に会見を開き、捜査の結果、水原氏が大谷選手の口座から1600万ドル(約24億5千万円)以上を不正送金したことや、大谷選手になりすまして銀行に送金を指示したことなどが明らかになったと発表した。大谷選手の無二のパートナーとして認識されていた水原氏の思いもよらぬ姿に、ネット上では「二重人格では?」との声まで上がる。水原氏自身が告白するギャンブル依存症とは、ここまで人を変えてしまうものなのか。約40年にわたり依存症治療に携わる精神科医に話を聞いた。 【写真】ギャンブル依存症が疑われた元エリート官僚はこちら * * * 報道によると、水原氏が賭博で負けた総額は日本円で279億8900万円あまり。勝った金額との差し引きの純損失は約62億2300万円という巨額なものだったことが明らかになった。 そして、今回判明した24億5千万円超の不正送金というケタ外れの金額もさることながら、その巧妙な手口も世の中に衝撃を与えた。米連邦検察の会見により、「大谷選手を装って複数回にわたり銀行に電話し、送金を指示した」「取引確認など銀行からの通知先を水原氏の電話番号に変更していた」「『大谷選手の意向』として、口座情報を代理人や会計士に共有していなかった」といった実態が発覚したのだ。 通訳だけでなく運転手やキャッチボール相手まで務めていた水原氏は、大谷選手から絶対的な信頼を置かれ、その温厚で実直な人柄は世間からも好印象を抱かれていた。そんな水原氏が、大谷選手に見せる顔からは想像できないほど悪質な犯罪に手を染めていたことに、「二重人格」という印象を受ける人がいるのも無理はない。
■依存症患者は「二重人格」ではない だが、依存症を専門に診察する大石クリニック(横浜市)の大石雅之院長(70)によると、水原氏の二面性は、一般に二重人格や多重人格と呼ばれる「解離性障害」などではなく、「依存症患者にはよくあること」だという。 「禁煙を主導する厚生労働省の官僚が実はニコチン依存症で、国会審議を抜け出してタバコを吸いに走るケースもあるし、一見普通の会社員がギャンブル依存症で、多額の横領をするケースもザラにあります。過去には、大王製紙の会長が賭博目的で会社のお金を100億円以上使い込んだ事件があったし、私のクリニックのスタッフにも、ギャンブル依存症の末に横領で捕まって刑務所に入っていた人がいます」 依存症で厄介なのは、依存状態にあることが周囲から見えづらいことだ。大石クリニックの公式サイトでは、ギャンブル依存症だった60代男性の妻の体験談が紹介されている。 「夫は、いつからまた競馬をしていたのか……。夫から告白されるまで、全く気付きませんでした。夫は40才頃から会社でのストレスが増え、土日は仕事と偽っては毎週競馬に通っていたようです。自費での接待や出張費用など、今思えば怪しい部分も多くありましたが、言われるままに夫にお金を渡していました。60才で定年退職した際に、夫からギャンブルでの借金があると告白を受け、退職金でも足りず貯蓄を崩して返済へとあてました。もう二度と競馬はしないと約束し、本人も懲りていると思っていたのですが、数カ月後にはまた競馬を始めていました」 大石院長いわく「生活をともにする夫婦でさえ気づけないことは多い」というギャンブル依存症の実態を踏まえると、大谷選手が水原氏にだまされ続けてしまったのも不思議ではないのかもしれない。