女優デビュー25年目 松本まりか、“限界突破”し体も心も解放し難役挑戦…映画「湖の女たち」
女優の松本まりか(39)が、公開中の映画「湖の女たち」(大森立嗣監督)で、体も心もさらけ出す難役に挑んでいる。ダブル主演を務める俳優・福士蒼汰(31)演じる若手刑事と、性愛関係に陥る介護施設職員役で“限界突破”し、「自分を生きることの美しさ」を体感した。女優デビュー25年目を迎え、「ここが私の居場所」と、芝居の世界への思いをより一層、強めている。(奥津 友希乃) 試写中、感想を書き留める記者のノートには「絶望」「息できない」「深淵(えん)」「光」「?」と切れ切れの単語や記号が並んだ。取材冒頭、映画の感想を言葉にすることが難しいと率直に伝えると、松本は2度、小さくうなずき、「はい。私もまだ理解が追いついていないんです」とささやいた。 「悪人」「怒り」など数々の社会派作品が映画化されてきたベストセラー作家・吉田修一氏の同名小説が原作。松本は滋賀・琵琶湖近くの介護施設で働き、実家では父の世話をする女性・豊田佳代を演じている。 松本がこれまで演じてきた妖艶(ようえん)で華のある役柄とは遠い、地味な人物。だが、「平凡な日常に幸せを見いだす人」とは全く違う。むしろ日常に息苦しさを感じ、嵐の前の静けさのような、どこか危うさを感じさせる難しい役どころだ。 「私自身、演じたことのある、いわゆる“あざとい”だとか、“魔性”みたいな女性ではない。抑圧された狭い世界の中で、自分を押し殺して生きている人。最初は佳代の何から捉えていいか分からなかったです」 頭で思考するよりも、心身の感覚で役に近づいた。撮影中は設備の整ったホテルでなく、あえて琵琶湖を望む古い旅館の6畳一間に約1か月間、滞在した。 「まず佳代の日常にある身動きが取れない苦しさや痛み、その閉塞(へいそく)感を心と体で理解しようと。撮影現場と旅館を行き来するだけ、畳の上で静かに湖に身を寄せる日々でした。どんどん痩せていきましたし、自ら湖の深いところに入って孤立していく感覚でした」 劇中の重要シーンで登場する湖からも、役に近づくヒントを得た。 「湖って本当に静かなんです。何も応えてくれない、何も教えてくれない。最初は本当に苦しくて。でも、自分の目や感性の解像度を変えたら見えるものが変わってくるんじゃないかと、この作品に臨む上で一番大事なことに気づかされました」 理性や本能、社会通念へのアンチテーゼなど、大きな問いを生々しくあぶり出すシーンの連続。セリフや物語の余白に思いを巡らせるため、自らの感性を研ぎ澄ませることが求められた。 「大森監督は『NO』がない全肯定の人で、ある意味恐ろしい演出をされる。湖のような人で、自分自身でYES、NOを判断させるように仕向けてくれるんです。それってすさまじいことだし、私も監督を信じ切ったからこそ、自分自身を極限状態に追い込むことができたんだと思います」 介護施設で起きた老人の不審死の取り調べをきっかけに、福士演じる若手刑事・圭介は、佳代にゆがんだ支配欲を抱いていく。福士とは初共演ながら、奇妙な引力でひかれ合い、深みにはまる男女の関係を演じた。 「福士君とはカメラの前以外での会話はほとんどゼロでした。役の関係上、仲良くしたくなかったし、分からない人、触れてはいけない人でいたかったので。だから、ほんっとうに福士君のことが怖かったです」 肉体的にも精神的にも全てをさらけ出す、文字通り体当たりの演技を披露した。 「性的な解放ってアンタッチャブルな領域だったりするけど、佳代は体の解放によって心が解放されて、生きていることを実感できる。自分を生きることはとても美しいことだと、私自身も全身で体感しました」 「体や心、欲望を解放する芝居に怖さはないのか」と聞くと、松本は6秒ほど沈黙し「心の解放は怖いですよね」と言葉を続けた。 「昔は怖くなかった。だけど大人になってくるといろんな思考を挟みたくなるわけですよね。そうすると体が動かなくなったり、感情を解放できなくなったりする。無意識のうちにルールやセオリーに縛られていたりするけど、この作品を通して俳優の仕事は頭、心、体をいかにリンクさせるかが大事だと学び直しました」 本作のラストシーンで心に刻んだ感覚がある。 「湖で朝日が昇るシーンがあまりに美しくて『私はこういう人たちと演技をする立場で、ここにいたいんだ。ここが私の居場所だ』って思えたんです。本当に美しく幸せだと思えるこの世界に居続けるために努力したいと。湖を見て何も感じなかった自分からは想像もできない感覚を得ました」 今年で女優デビュー25年目。9月には40歳を迎える。「いわゆる不惑の年。ずっと迷ってきたけど、今は『ここで生きていく、こっちだな』って。まだ理想には追いつかないけど、場所は分かってます」。女優としての覚悟や表現の解像度はより鮮明になっている。 ◆「湖の女たち」 介護施設で起きた100歳の老人の不審死を捜査する若手刑事・圭介(福士)とベテラン刑事(浅野忠信)は、施設関係者を執ように取り調べていた。事件が混迷を極める中、圭介は介護士・佳代(松本)と性愛関係に陥る。不審死を追う週刊誌記者(福地桃子)は、過去の薬害事件が関係していることを突き止める。141分。 ◆松本 まりか(まつもと・まりか)1984年9月12日、東京都生まれ。39歳。中学生の時にスカウトされ、2000年にNHKドラマ「六番目の小夜子」でデビュー。映像や舞台、声優などでも活躍したのち、18年、テレビ朝日系ドラマ「ホリデイラブ」で不倫妻役の演技が話題に。現在は、テレ朝系連続ドラマ「ミス・ターゲット」に主演中。
報知新聞社