【検証記事】石垣市の台湾視察「接待」疑惑 会食の実態や識者の見解は 取材重ね不適切と判断
沖縄県石垣市の中山義隆市長や市議、市職員ら計20人が台湾航路の開設に向けた公費視察で11月12~14日に台湾を訪れた際、現地物流大手の華岡集團(ワゴングループ)との会食で「接待」があった疑いがあるとした本紙報道(同23日付)について、中山市長は今月2日の市議会で「偽証、捏造(ねつぞう)」と述べた。本紙報道は飲食店側への取材で得た回答と、中山市長を含む複数の当事者への事実確認に基づき、市側が支払った会費以上の食事での「接待」は不適切だと報じた。取材の経緯を振り返る。 【ひと目で分かる】定期船航路を巡る、石垣市と台湾企業の相関図 2日の市議会では、嶋田廉企画部長も「記事化する前に確認すべき飲食店側への支払いや費用負担について取材していない」「飲食店側は(取材に)一切回答していない」「どう喝ともとれる取材だった」などと本紙を批判している。 ■会食の実態 本紙は11月14日、複数の関係者から「接待」の情報を得た。取材班で事実確認したところ、2日間で3回あった会食で中華料理などが振る舞われ、ワゴン社側の幹部らが参加。複数の当事者が「皇族のような接待を受けた」「事業に対する(ワゴン社からの)期待を感じた」と話した。 公務員が企業からその職務に関して接待を受けた場合、公務員は収賄罪(刑法197条)に、接待した企業は贈賄罪(同198条)に問われる可能性がある。また市の職員倫理条例は、利害関係者の負担で飲食の提供を受けることを禁じている。 1回目の会食は高級ホテル「圓山大飯店」のVIPルームで、中華のフルコースだった。当日の品書き、料理の写真を入手し、中国語を話せる本紙記者が電話で取材。同店のスタッフは「特別なお客さまに特別に用意したメニュー」と説明し、料理だけで1人当たり税込み3300元(約1万6千円)だと明らかにした。 さらに残りの2店舗にも同様に取材すると、3回の会食で、市の視察団に約84万5千円相当の食事が提供された可能性が高いことが判明した。視察団がワゴン社に支払った会費は約29万円で、約55万円の差額が生じる。会食では酒類も提供されたため、実際の料金はさらに膨らむとみられた。計3店舗には、得意企業や個人といった理由で割引することがあるかどうかを確認したが、いずれも「ない」と答えた。 ■識者の見解 ワゴン社は現時点で市と直接的な契約を交わしていないが、(1)航路開設事業は市が主導(2)定期船を購入する新法人「商船やいま」は市の支援の下で設立(3)新法人はワゴン社に船の運行管理の業務委託を予定-との事業の流れがある。今後市は新法人に出資する予定で、総務省によると少額でも出資の事実があれば第三セクターの位置付けとなる。 これらの事情を踏まえ、刑事訴訟法や行政法の専門家2人に取材した。2人とも「市とワゴン社は利害関係者に当たる」との見解を示した。仮に接待が台湾文化のもてなしだとしても、公職者は均等に精算すべきだという指摘もあった。 また条例上の利害関係者に当たらない場合でも、条例の趣旨を踏まえれば不適切であり、また「ワゴン社は事業を有利に運べると期待するし、接待を受ければ市や市議も忖度(そんたく)する可能性がある」と、贈収賄の可能性への指摘もあった。 ■市側の認識 市の担当課と中山市長には同21日、事実関係や認識を尋ねた。中山市長は「ワゴン社が歓待してくれた。ただ全額出してもらうのは問題だから『みんなからお金を集めよう』と言って、お金を出した」と述べた。 「割り勘」する意思があったかを尋ねると「それは失礼になる。向こうはごちそうしようと思って招いている。それを『割り勘にしよう』と言ったら、『おたくとはそういう付き合いです。もう深入りしません』となる」と答えた。 一方で「逆にワゴン社が石垣市に来た時には、こちらが接待する。ごちそうされてごちそうしての繰り返しは、いつもやっている。ビジネスの世界や外交上でもあることだと思う」と説明した。ワゴン社は、市の利害関係者にも当たらないと述べた。 市の担当者は会食の実際の値段を把握しておらず、ワゴン社と事前調整の上、相応の支払いをしたとの認識を示した。 ■事実の整理 取材班は同22日、中山市長の「ワゴン社が条例上の利害関係者に当たらない」との見解を検討した。(1)市が強く支援する新法人の契約相手方は事実上の利害関係にあり、中山市長や市職員、市議はそれぞれ事業に関連した職務権限を有している(2)条例で利害関係者に当たらなくても、民間企業と「ごちそうされてごちそうして」の関係は不適切(3)刑法上の贈収賄が適用される可能性がある-ことを鑑み、それまでに取材で得た事実関係を整理して同23日付で報じた。 なお、ワゴン社には報道前も報道後もそれぞれ複数回取材を申し入れているが10日までに回答はない。また一連の取材で、取材先から「どう喝」という指摘を受けたことはなく、そのような事実もない。