福士蒼汰VS岡崎紗絵&佐々木希の構図に 『アイのない恋人たち』が描く大人の恋愛の切なさ
『アイのない恋人たち』(ABCテレビ・テレビ朝日系)第6話を観て、某婚活サービスのCMで使われた「結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私はあなたと結婚したいのです」というフレーズが頭をよぎった。結婚をしなくても、さらにいえば恋愛をしなくても、幸せにはなれる。愛なしでも生きていける現代で、私たちはなぜ愛を求めてしまうのだろう。 【写真】メガネを外し、絵里加とは別人のように 岡崎紗絵インタビュー撮り下ろしカット 当初は、様々なタイプの恋愛偏差値低めなキャラクターたちのすれ違う恋が、見どころに思えたドラマ『アイのない恋人たち』。しかし折り返し地点を迎えたいま、物語はもう少し大きな核心的なテーマに踏み込み始めているように思う。それこそが「愛なしでも生きていける」現代で、誰か1人を選び、裸の心で傷つきながらも向き合うことの意味なのではないか。 そんな第6話のテーマともなる「愛なしでも生きていける」という考え方は、今村絵里加(岡崎紗絵)が言い出したものだ。しかし、この考え方は淵上多聞(本郷奏多)にも共鳴するものがある。これまで郷雄馬(前田公輝)と近藤奈美(深川麻衣)、久米真和(福士蒼汰)と絵里加、多聞と冨田栞(成海璃子)で動いてきた本作だが、第6話ではそうしたペアの“シャッフル”の描写も印象的だった。今回描かれたのは、栞と真和、絵里加と多聞の組み合わせでのパートだ。 もちろん安易に恋愛関係になることはなかったが、会話の端々には“そうなってもおかしくない”空気が漂う瞬間があったように思う。真和が放った「付き合ってみる?」を、栞は拒否したが、時に恋愛はそのレベルの軽やかさで始まってしまうものでもある。だからこそ、ほんの少しハラハラした視聴者も多かったのではないか。 おそらく真和の発言は軽い誘いであったにしろ、栞から見て「多聞にあって真和にはなかったもの」とは何かについて、少なからず思いを馳せてしまう場面だった。恋愛における「相手がその人でなければならない理由」とは何か。奈美と雄馬が、結婚相談所での他人とのデートを通じて互いを思い出してしまうように、“他人との比較”で浮き彫りになる恋心についても考えさせられる回だった。 そして切ないことに、今回のエピソードではすぐに「よりを戻そう」とは言わない大人の恋愛も繰り広げられた。雄馬の「奈美ちゃん、いい人見つけてね」、多聞の「僕はあなたと会えて幸せでした」のダブルパンチに、思わず涙腺が一瞬弛む。特に雄馬演じる前田公輝が、婚姻届を破るシーンの涙の演技には、こちら心も揺さぶられた。普段は明るい笑顔を振りまく雄馬の涙が、「奈美を想いながら流す涙」というのがこれまたグッとくる。 一方、真和の脚本は困難に直面する。プライベートのあれこれから筆を重くなった真和は、プロデューサーからはAIの助けを借りることを提案されるが、それを拒否する。「しのごの言わずにChatGPTの言う通りに直せばいいんだから」と無茶を言われた真和が気の毒で仕方ない。とはいえ、脚本の仕事を降りてしまうことには「もったいない!」と声を上げたくなるが、きっとそんなことは彼自身が1番よくわかっているはずだ。 脚本家としてのポリシーを感じさせた真和と対比するように、「夢」から目を背けていたのは稲葉愛(佐々木希)だ。富裕層の男性と結婚をすると決めたわりには、浮かない表情をしていることを真和に見抜かれた愛。彼女にとっての結婚は「幸福になるための手段」に見えて、その反対にある「(愛にとっての)幸福から目を逸らすための手段」だったのかもしれない。 これまで、真和を巡る絵里加と愛との三角関係が度々描かれてきたが、ここに来てまさかの「真和VS愛と絵里加」の構図が見られる日が来るとは。真和のことが好きだからこそ、彼のことを放って置けない愛と絵里加だが、「俺のことより、自分の人生考えろよ」という彼の言葉は2人の心にきちんと届いたのだろうか。 “嫌いの反対は無関心”とよく言うように、自分のことを棚に上げて何かを言いたくなってしまうのは、少なからず相手に関心があるから。その関心の答えが、単なるおせっかいなのか、支配欲なのか……はたまた「アイ」なのか。本作の視聴者はもう、答えを知っているはずだ。
すなくじら