小林私主催『小林私の五日間』オフィシャルライブレポート 果たして『小林私の五日間』とは何だったのか?
Vol.4 公募ライブ「小林私とおまいら」
シリーズVol.4は小林のデビューのきっかけが公募ライブだったことから、いつか自分も公募ライブを実現したかったという経緯で実現した。まずオープニングアクト(!?)として小林がステージに登場し、戦いを勝ち抜いた4名の出演者の選考理由を語る。ちなみに応募件数は108件。小林の楽曲をカバー動画が応募の条件だが、その数とクオリティに驚いた様子だった。 そんな応募者の中から小林のお眼鏡に叶い、“おまいら”に厳選されたのは中林宙昊、あちき、蔦田宗汰、神崎の4名。奇しくもこの4名、17歳と18歳という。 まず、中林宙昊は「ここでがなっときまーす、みたいな小林私っぽい歌い方ではなく、自分なりの解釈がいいなと」という評価だ。あちきは「まず名前が面白い。そして原曲はスローな「飛日」をアッパーにカバーした意外性、しかもブッダブランドの「人間発電所」等幾つかサンプリングをしている曲で、ラップのフロー的なアプローチも良かった」とのこと。蔦田宗汰については応募動画が顔を下から捉えたものだったことをはじめ、「とにかく面白い」とし、神﨑は「(驚いて)ペットボトルの水をこぼしてしまうぐらい上手い」というのが選考理由だ。すでに楽屋で仲良くしており、小林は年長者の威厳を見せつけるべく(?)スマブラで全員を倒したという。全くおとなげない。選考理由を述べた後、小林は「加速」を披露。歌い始めると一気に場の空気が引き締まり、本家の存在感が光るのだった。 公募者ライブのトッパーは中林宙昊。登場早々「叶うなら後ろ向いて歌いたい。だって怖くないですか?」と言いつつ、「花も咲かない束の間に」を独特なしゃがれ声のシャウトで聴かせ、オーディエンスの驚きを誘う。どこかチバユウスケを想起させるボーカルだ。続けて「光を投げれば」を披露。弾き語りでありつつ、この人ならではのロックな表現を見せつけ、大きな拍手が沸き起こった。 続いては名前の印象とは真逆に高身長のあちきが登場。姉にオリジナルではなく「小林私さんの歌を歌ってるんだから(私じゃなくて)“あちき”ぐらいだろ」と言われたことが名前の由来だと説明し大いに笑わせる。「飛日」の歌い出しで間違え、堂々と「もう一回いいですか?」と言えるあたりも大物感が漂う。そして歌唱は独特のフロウがありユニークだ。もう1曲の「HEALTHY」ではギター巧者なところも見せてくれた。 続く蔦田宗汰は短パンで首から白タオルという見るからに懐っこいキャラクターが笑いを起こす。しかも歌に入るまでにかなり喋るのだ。弾き語りの動画だけを送ってもパンチが足りないという理由で、喋りの動画を無言にして送ったという謎の行動も小林のリスナーには好意的に捉えられていた。肝心の弾き語りは「地獄ばっかり」も「スープが冷めても」も、自分の解釈でダイナミックに演奏。ただのお調子者ではないところを存分に見せつけた。 最後は小林が上手さに圧倒されたという神﨑が務める。奈良からやってきた彼は東京に到着した途端、鼻血を出し着ていたシャツをお釈迦にしてしまったそうだ。それを「17歳のクソガキです」と自嘲する態度も好ましい。選曲がまだ音源になっていない「目下」と「スパゲティ」だったことにも注目したいのだが、畳み掛けるような言葉の連射も迫力があり、小林私楽曲のカバーであることを超えてステージに釘付けになってしまった。 半信半疑でいたオーディエンスも4人の熱演に感銘を受けている様子で、シリーズで最も音楽的なライブになった印象だ。再び登場した小林は「俺ってこんな感じなんだ。俺を見てるみたいな感じ」と非常に楽しそうで、自ずと自身のライブにも熱が籠る。「線・辺・点」でオリジネーターの迫力を見せつけ、「改めまして、シンガーソングライターの小林私です。よろしくお願いしますー」と、自己紹介した後、いつもなら無関係なMCに移行しそうなところを続けて「冬、頬の綻び、浮遊する祈り」へと繋いだ。MCでは小林自身はかなり長い間、ギターのレギュラーチューニングができていなかったことを告白、挑戦者たちのレベルの高さを暗に示唆していた。しかも頼もしさだけじゃなく、4人に対する仲間意識もあるのだろう。この日の小林の弾き語りは勢いと楽しさに溢れていたのだ。スリリングな「遊歩する男」、小林流のシティポップ感がコードワークに伺える「冷たい酸素」、そして久しぶりにライブで披露された「サラダとタコメーター」まで、怒涛の如く駆け抜けるライブを展開したのだった。 全ての演奏が終わると、出演者一同で集合写真を撮影する段取りとなり、年長者である小林がちょっと引率者めいた存在に見えたのも非常にレアだった。音楽表現として素直に刺さる演奏をしてくれた4人に対する大きな拍手が収まると、場内にはスーパーの閉店音楽のように「蛍の光」が流れる。直後に背景のスクリーンにはVol.3からVol.1までの振り返り映像が時間を逆回しに映し出され、程なくして「Vol.0」の文字が。小林の影アナウンスで「ご来場、ご観覧の皆様、小林私の五日間はこれにて全公演が終了いたしました」という音声にオーディエンスは当然キョトンとしている。え? まだ4公演しかやってなくね?という意味で、だ。すると明転したステージの背景にVol.0の配信がこの後行われる旨の映像が投影され、この日の公演は終演とあいなった。現地組もグループチャットもしばし「ゼロとは?」と、キツネにつままれていたのは言うまでもない。