クレジットカード業者による「表現規制」なぜ? 交渉すべき相手すら「闇の中」の現状
「規制を進めている者」の詳細が不明?
近年、マンガやイラストなどのコンテンツを取り扱うプラットフォームでVISAやMASTERCARDをはじめとするクレジットカード(以下、クレカ)が使えなくなる事例があいついでいます。過去のコンテンツを多く扱っていた「マンガ図書館Z」はサイト停止を余儀なくされました。こうした動きがコンテンツ産業やクリエイターに与えるダメージは深刻となる一方です。いったい何が起こってるのでしょうか? 【画像】いったい誰が何のために? クレカ決済停止で追い詰められたサイトたち(4枚) 2024年は、「ニコニコ」や「DLsite」など創作物を扱うプラットフォームで、それまでは利用可能だったクレカが使えなくなるという事態が多発しました。特に国内外の多くの店舗やサイトで利用可能だったVISAとMASTERCARDが使えなくなったことでユーザーの購入機会が激減し、クリエイターからは「海外からの売り上げが大きく減少した」と嘆く声もあがっています。 実は、これらのサービスでクレカが使えなくなった理由は、「現時点では不明」となっています。誰が何のために進めているのか、まだよくわかっていないのです。 コンテンツに対する実質的な「規制」が繰り返される状況を受けて、山田太郎参議院議員が2024年8月にアメリカへと飛び、VISA本社を訪れています。その際に同社の副社長から、成人コンテンツに関しては合意のもとで提供され、なおかつ児童ポルノでなければ「内容に関する基準は定めておらず、判断もしていない」「特定用語で取引規制する指示は出していない」との言質を得ています。 しかし11月26日、VISA日本法人代表取締役社長のシータン・キトニー氏がアダルトコンテンツに関して「時にVISAのブランドを守るために、使えなくすることが必要になる」と発言。山田議員はアメリカへと向かい、再び本社で言質を取ることとなりました。
なぜVISA本社と支社で発言内容が食い違うのか?
なぜVISAの本社と支社で発言内容が食い違うのでしょうか。これは、クレカで決済を行うための「複雑な仕組み」と関係しています。 クレカ会社が決済を行う際には、お店と契約する決済会社である「アクワイアラー」、利用者と契約する決済会社「イシュア」、さらに決済代行会社を経由します。これらのどこかに、コンテンツ売買に対する規制を進めようとしている人間や組織がいる可能性が高いとみられています。VISA本社に規制をするつもりがないのに、日本法人が「規制」の可能性を口にするのは、このことが背景にあると考えられます。 ただ、「規制」を推進しようとしている人物または組織を特定しようとしても、「アクワイアラー」は世界に272社、「イシュア」は243社が存在しているため、どこから圧力がかかっているのかをつかむのは、極めて困難なのです。 SNSなどでは「VISAやMASTERCARDが使えなくなってもJCBがある」といった声もあがっていますが、サイト停止に至った『マンガ図書館Z』の決済代行会社はJCBも取り扱っている業者であり、今回のケースでは決済代行会社からの決済契約の解約通告により、一気に停止へと追い込まれました。現在は他の決済手段での再開を模索しているとのことですが、クレカはネットサービスにとってインフラに等しい存在です。クレカが使えないとなるとユーザーが不便を感じる可能性は高く、利用者も減少するでしょう。「JCBなら大丈夫」というわけではないのです。 こうしたサービスが「規制」されるのは「児童ポルノ」がらみの問題があるからだ、という指摘もされていますが、実際には児童ポルノとは何ら関係のないコンテンツも巻き添えになっています。どこの誰が「規制」を進めているのかも分からず、「規制」の理由も明確でない現状では、話し合いを持つことすらできません。 現時点ではまだ、状況を問題視している人が「点」となっている状態です。いま見えている道筋は、それらの「点」と「点」をつないで「線」にして、「線」をつないで「面」を作り、「規制」を望む者と接触できるようになるまで広げていくことぐらいでしょう。
早川清一朗