ユニクロが「マニュアル」よりも「原理原則」を重視するワケ…生産性を大きく左右する「仕事のルール」
マニュアルに依存しすぎるのは危険
ユニクロの場合はどちらでもありません。「全てはお客さまのために」という原理原則があるからです。お客さまを何よりも優先すべきと決まっているので、その視点でトラブルに対応する姿勢を貫けます。 マニュアルを拡大解釈して、現実をマニュアルに当てはめることで企業としての対応がぶれることもあります。原理原則があれば、マニュアルにとらわれずに、お客さまのためになることを実行できます。 「上司に怒られる」「現場で勝手なことをしていいのだろうか」などと悩むことはありません。「このマニュアルに当てはめればいいのかな」などとマニュアルを探る必要もありません。 お客さまの属性はひとりひとり違います。お客さまに向き合えば向き合うほど、マニュアル通りの同じ対応というものは本来あり得ません。 もちろん、マニュアルを否定するわけではありません。最低限の均質のサービスを提供するにはマニュアルは有効です。ただ、最高のサービスを提供するには、マニュアルは弊害にもなります。 マニュアルに依存しすぎるのは危険です。働いている人は人間ですし、お客さまも人間です。機械的に対応するには限界があります。原理原則があれば、「なぜやるか」を理解できて、「自分が何をすべきか」も考えるようになります。 マニュアルに書いていないことに対応し、さらに良くするには、自分で考えるしかないからです。
「全員経営」が求められるようになる
生産性を本当の意味で高めるには、業務の本質、根本を理解しないといけませんが、その理解の指針となるのが原理原則ともいえるでしょう。みなさんはこれまで、仕事のルールと聞くとマニュアルを思い浮かべてきたかもしれませんが、ユニクロの仕事のルールは原理原則です。ルールを知らなければゲームには勝てません。 「企業の中には原理原則がなくてもマニュアルだけで生産性が高い企業はいくらでもあるのでは」との指摘があるかもしれません。確かにそうした企業もありますし、強力なトップダウンでマニュアルに忠実に働くことで成長してきた企業もあります。 ユニクロもかつてはそうでしたし、小売り大手は本部の決めたことを店舗が忠実にこなすチェーンストアのビジネスモデルで拡大成長してきました。ただ、それはやはり一昔前の組織形態と言わざるを得ません。 少子高齢化で大幅な需要増が見込めず、地方の開拓もほとんど終わった今となっては、ユニクロに限らず「全員経営」が遅かれ早かれ必ず求められるようになります。 ひとりひとりが自律的に考えて、問題を発見して、現場から改善する。こうした動きを起こそうとすればマニュアルには限界があるのです。マニュアルで多くのことを決めれば決めるほど、働く人は考えなくなるからです。 経営理念はときに哲学的だったり、抽象的だったりします。経営理念だけでは現場の行動にはつながりにくいのが現実です。抽象度を落としつつもマニュアルのように行動をかっちりと規定しない中間の仕組みが必要になるのです。理念を現場に落とし込む「仕組み」です。 それが原理原則です。原理原則をつくって機能させることができるかが、企業の生産性を大きく左右するのです。
宇佐美 潤祐(元・ファーストリテイリンググループ執行役員)