仏教も「ジェンダーフリー」に、お寺がLGBTQにとっての安全地帯になる
近年、同性やトランスジェンダー同士の婚姻を承認し、独自の証明書を発行する自治体独自の「パートナーシップ宣誓制度」が広がり始めている。2015(平成27)年11月に東京都渋谷区と世田谷区で同時に施行されたことがきっかけだ。京都市や群馬県、茨城県、大阪府などが同制度を取り入れている。 企業などでも、LGBTQへのガイドライン策定が進むなど、理解を深める取り組みが広がりをみせている。 電通グループの調査によれば、LGBTQの割合は8.9%。これは、ほぼ左利きの人口に匹敵する。うち35%がカミングアウト(実名で自分のセクシュアリティを他人に伝えること)しているという。つまり、僧侶や檀信徒の中には一定数LGBTQが存在する。 ■ 僧侶兼メイクアップアーティストの告白 仏教界のLGBTQへの対応は「待ったなし」といえる。先述のシンポジウムにはLGBTQの啓発活動に関わる3人が登壇した。 そのひとり、浄土宗僧侶の西村宏堂さんはメイクアップアーティストとしても国際的に活躍している人物だ。まさに西村さんはLGBTQの当事者でもある。 西村さんはシンポジウムで、自分自身のセクシュアリティに苦しみながら修行に入ったことや、修行仲間からLGBTQを蔑むような発言を受けたことなどを赤裸々に明かした。 「僧侶の戒の中には、装飾品や化粧をつけてはいけない、という内容のものもあります。私が僧侶になることで仏教の秩序が崩れるのではないか、と悩みました」 西村さんは修行中、ある高僧に「同性愛者でも(僧侶として)大丈夫でしょうか」「メイクもハイヒールも好きなのですが……」と打ち明けたという。
すると、「同性愛者でも問題ないですよ。教えが正しく伝わるなら、キラキラするものをつけても問題はないでしょう。みんなが平等に救われることのメッセージを伝えていってほしい」と促されたことで、救われたと明かす。西村さんは修行を終えた後は、僧侶兼メイクアップアーティストとして精力的に活動している。 西村さんのように、LGBTQの僧侶は決して少なくない。しかし、多くがカミングアウトできずに「我慢して」きたと思われる。 仏教界は極めて前時代的な文化・習慣が残る世界だ。「男僧・尼僧」という性差をはっきり分けてしまう呼び方や、男僧・尼僧とで儀式のやり方が異なるケースもある。 僧侶だけではない。檀信徒の中にも多くのLGBTQが存在する。近年、各地の寺にLGBTQに関する相談が寄せられてきている。特に、「戒名」は個(故)人のアイデンティティに関わる大事な問題だ。 ■ 「ゲイやレズビアンのパートナー同士で墓に入りたい」 先の戸松さんは、シンポジウムで戒名問題にも踏み込んだ。 「お坊さんが良い戒名だと思って付けても、LGBTQの当事者はそうは思っていなかったということもあるかもしれない」 たとえば、「戸籍上女性として生まれたけれど、男性として生きてきた。だから戒名は男性につけるものにしてほしい」といったケースだ。だが、この場合、生前に住職や家族にカミングアウトすることが前提となる。 戒名だけではない。 「ゲイやレズビアンのパートナー同士で墓に入りたい」――。 先述のように日本の慣習では婚姻届を提出した男女の夫婦でなければ、イエを継承できないことが多い。一族の墓に入れるのは、イエを継承した者に限るとする規定を設けている霊園も少なくない。 法的に認められない同性愛の「夫婦」は、夫の一族墓に入ることができないのだ。