神木隆之介、高橋一生、稲垣吾郎、磯村勇斗ら 2023年に大活躍した男性俳優たち
多くの俳優に魅了されているうちに、あっという間に過ぎてしまった2023年。彼ら彼女らが生み出した感動的なシーンは、数え切れないほどである。 【写真】『ゴジラ-1.0』場面写真(複数あり) ここではそんな演技者の中でもとくに印象に残った男性俳優10名にフォーカスし、映画、ドラマ、演劇のシーンに彼らが刻んだ功績を振り返ってみたい。 神木隆之介 2023年のエンターテインメントシーンを語るうえで、絶対に欠かせないのが神木隆之介だろう。朝ドラ『らんまん』(NHK総合)で主演を務め、半年という長い時間をかけて槙野万太郎という人間の人生を私たちに提示し続けた。 かつては“新人俳優の登竜門”という側面が強かった「朝ドラ」だが、ここ数年はすでに実力ある者が座長を務めるパターンが多い。新しい才能との出会いを望む視聴者からすると納得できないところがあるかもしれないが、実力者でなければ務まらない役どころというものがあるのも事実。万太郎はまさにそんなキャラクターだった。“天真爛漫で好奇心旺盛”これを体現し続ける神木の演技には新人のような瑞々しさがあった。一方、主演を務めた『ゴジラ-1.0』では硬派な青年・敷島浩一を好演し、作品のヒットに大きく貢献した。 黒崎煌代 同じく「朝ドラ」で輝いた俳優といえば、『ブギウギ』で俳優デビューした黒崎煌代がすぐに思い浮かぶ。ヒロインの弟・六郎を演じている彼こそ、真の新人俳優である。新人にしか出せない一度きりの初々しさとたしかな技量が結実し、六郎というチャーミングなキャラクターは多くの視聴者に愛される存在となった。『ブギウギ』放送開始から間もなく映画『さよなら ほやマン』も封切られ、いまもっとも多方面から熱視線を浴びている若手俳優であることは間違いない。 佐藤緋美 若手俳優といえば、舞台『書を捨てよ町へ出よう』で俳優デビューした佐藤緋美も素晴らしかった。人気の演劇作品を映画化した『あつい胸さわぎ』では映画オリジナルのキャラクターを演じ、作品の主題を強化することに貢献。次代を担う若手俳優が勢ぞろいした『少女は卒業しない』で彼が歌い上げた「ダニー・ボーイ」はいまも耳から離れない。各作品のキーパーソンを担うことのできる逸材である。 綾野剛&加瀬亮 “演じる”という行為そのものに激しく心を揺さぶられたのは綾野剛と加瀬亮だ。綾野は配信中の『幽☆遊☆白書』(Netflix)での怪演も話題だが、筆者としてはやはり『最後まで行く』と『花腐し』でのパフォーマンスが強く印象に残っている。前者では“顔=表情”で、後者では“声”で魅せた。細部に感情を乗せるそのさまは、いずれも怪演といえる域に達していたと思う。 一方、加瀬に関しては、これはもう完全なる怪演だった。そう、『首』で演じた織田信長役である。多くの映画で自然体な演技を披露してきた加瀬だが、同作では久しぶりに振り切れてみせ、「鬼」と呼ぶにふさわしい信長像を作り上げている。綾野にしろ加瀬にしろ、つくづく俳優とは恐ろしいものなのだと思い知らされる。そして彼らのパフォーマンスそのものに涙した。忘れがたい経験である。 磯村勇斗&東出昌大 傑作の誕生に貢献し、一つひとつの作品を底上げする役割を担ったのは磯村勇斗と東出昌大。磯村は『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編』などの大作に参加するいっぽうで、『波紋』、『渇水』、『月』、『正欲』といった作家性の強い作品にも出演。ジャンルや作品の規模感を問わずバランスよく活動を展開するのはこれまでどおりの彼のスタイルだが、今年はその振れ幅が顕著だった。2024年は2年ぶりの主演映画『若き見知らぬ者たち』の公開も控えており、さらなる柔軟な活躍に期待が高まる。 主演を務めた『とべない風船』の公開とともに2023年がスタートした東出は、『Winny』、『福田村事件』、『コーポ・ア・コーポ』に出演。改めて作家たちに愛される俳優なのだと証明した1年だっただろう。そしてこの流れは2024年も続いていく。いまの彼の生き方や考え方に迫ったドキュメンタリー映画『WILL』も公開されるとあって、誰もが“俳優・東出昌大”を再発見する1年になるはずである。演劇作品『ハイ・ライフ』でのアクロバティックな話芸も素晴らしかったので、ぜひ舞台にもコンスタントに立ち続けることを願いたい。 高橋一生 高橋一生は、映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』で気品あふれる佇まいと特異な話芸で魅せたかと思えば、NODA・MAP『兎、波を走る』では舞台上を全力で駆け回っていた。彼は圧倒的なフィクションの世界を彷徨いながら、そこにたしかに存在する“モノ=切実な主題”を私たちへと差し出すことのできる稀有な俳優だ。すでにベテランの域にある存在だとは思うが、2024年も彼の挑戦的な活動を追いかけたい。 稲垣吾郎 稲垣吾郎は、映画『正欲』、Netflixシリーズ『幽☆遊☆白書』、さらには『サンソン -ルイ16世の首を刎ねた男-』と『多重露光』という2つの演劇作品に出演し、2023年のエンタメ・シーンを牽引した。しかも、どこか浮世離れしていたり、自身の正義が絶対的なものだとするキャラクターたちは、いまだその実像を掴みきれない稲垣本人のキャラクターとも重なった。つまりはどれもがハマり役だったわけである。2024年は俳優としてどんな扉を開くのだろうか。 浜田信也 最後はこのひとり、浜田信也である。イキウメの看板俳優である彼は、演劇ファンにとっては誰もが知る俳優だが、今年は一気に彼の存在が世に知られることになったのではないだろうか。 映画『遠いところ』やドラマ『いちばんすきな花』(フジテレビ系)など映像作品への出演が増えたことはもちろん、特に大きいのは『ハヤブサ消防団』(テレビ朝日系)で物語後半の展開を支配してみせたからだ。同作で初めて浜田と出会ったという視聴者も多いのではないだろうか。 だが、もちろん彼は新人俳優などではない。圧倒的な技量とセンスを持った演技者だ。イキウメの新作公演『人魂を届けに』や、イキウメ主宰の前川知大が世田谷パブリックシアターとタッグを組んだ『無駄な抵抗』での演技も、ため息の出る美しさだった。セリフ回しも身のこなしも流麗なのだ。映像作品への出演の機会は確実に増えるのだろうが、やはり舞台上の浜田信也を追いかけ続けていきたい。 苦渋の選択の末、以上の10名について記してみた。この2023年は“これから”が期待の若手俳優ともたくさん出会ったのだが、やはりどうしたって経験値に勝るものはないらしい。あなたが2023年を振り返ったとき、そこにはどの男性俳優が立っているだろうか。そして2024年は、どんな新しい才能と出会えるのだろうか。
折田侑駿