市川團十郎の娘・堀越麗禾のピュアな声の演技が胸を打つ「ザ・クリエイター/創造者」人類とAIの“幸福な共存”は可能か
近未来を舞台にしたSF映画「ザ・クリエイター/創造者」が1月10日に配信された。同作でストーリーの鍵を握るAIの少女・アルフィー(マデリン・ユナ・ヴォイルズ)の日本版声優を現在12歳の堀越麗禾が演じている。十三代目市川團十郎を父に持ち、舞踊家・四代目市川ぼたんを襲名している彼女は、この作品でアルフィーのピュアな声を見事に表現し、声優としても演技の幅を広げた。(以下、ネタバレがあります) 【写真】はにかみ笑顔が初々しい…!堀越麗禾の撮り下ろしカット ■ギャレス・エドワーズ監督の最新作 同作は、映画「GODZILLA ゴジラ」(2014年)、「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」(2016年)などを手掛け、世界から高い評価を得たギャレス・エドワーズ監督の最新作。舞台はAIが社会の各所に普及した2075年。人間を守るはずのAIが反乱を起こし、ロサンゼルスで核爆発を引き起こした。その5年後、人類とAIの戦争が始まった世界で、元特殊部隊員のジョシュア(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は、人類を滅亡させる兵器を作り出したクリエイター「ニルマータ」が作り上げた秘密兵器の破壊を命じられる。作戦のため、「ニューアジア」に潜入したジョシュアだが、ニルマータの本拠地で見つけたのが少女の姿をしたAIだった。ジョシュアは彼女をアルフィーと名づけ、AIの破壊とは別のある目的から、アルフィーと行動を共にしていく。 「人類とAIの戦争」がテーマとはいえ、AIが支配する「ニューアジア」ではAIと人間が共存している。しかし、劇中の「西側」は、ノマドという宇宙兵器を使ってAIもろともニューアジアの住民を殺りくすることも辞さない構えだ。西側とニューアジアは、それぞれ明らかに欧米とアジアがモチーフになっていて、「欧米とアジアの分断・対立」という極めてデリケートなメタファーも表象している。 そんな敵対する2つの勢力の中間にいるのがアルフィーだ。人間と同じ顔に機械の後頭部を持つアルフィーは、ニューアジアとは違うジョシュアの言葉も理解し、AIとしての学習能力を発揮していく。それは人間の子どもが好奇心を見せ、身の周りの経験から成長していく過程にそっくりで、「戦闘マシーン」だったジョシュアとも心の交流を深めていく。 ■堀越の声でアルフィーのピュアな部分が強調 堀越が演じるアルフィーの声は、視聴者には得体の知れないものに映っていたAIをより人間らしく、共感できる存在にしてくれる。最初はジョシュアが理解できないニューアジアの言葉をたどたどしく発していたアルフィーだが、言語を覚えてジョシュアとは人間同士のようにコミュニケーションをとっていく。12歳らしい透明感のある声で、アルフィーの無垢さが強調されて伝わってくる。 序盤、AIを人間を滅ぼす悪者として見ていたはずの視聴者は、アルフィーの存在で視点の転換を余儀なくされるだろう。西側がニューアジアに対してやろうとしているのは一方的な殺りくではないのか。AIにも感情や思考があり、痛みを感じるかもしれない。人間と見分けのつかないAIも登場するこの世界で、人間とAIの境目はいったい何なのか、ジョシュアたちの任務は正義なのか――。 AIの能力が人間を超える「シンギュラリティー」の到来もうわさされる時代だが、古典的なSFで描かれてきた機械と人間の対立だけでなく、前述のような異文化の対立や人間を人間たらしめているのは何か、といった大きなテーマに挑んでいる意欲作だ。アルフィーとジョシュアの交流、そして明かされる核爆発の真相や世界の行方は、人間とAIの境界をいっそう曖昧にして、見る者にこれらのテーマを問い掛ける。 ■父が主演した「桶狭間」でドラマデビュー アルフィーを演じるにあたっての当メディアのインタビューで、堀越は「普段は感情を素直に見せるのが苦手」と明かしている。アフレコでは監督からの「表情を変えたら自然に声が出てくる」というアドバイスで、さまざまな感情に合わせた演技ができるようになったという。まるでアルフィーが人間の思考を理解していく過程にもリンクしていて、声優業でも素直な成長を見せている。 父の團十郎が主演した2021年のドラマ「桶狭間~織田信長 覇王の誕生~」(フジテレビ系)でドラマデビューし、同年には「二月の勝者-絶対合格の教室-」(日本テレビ系)の浅井紫役で初の連続ドラマレギュラーを獲得。2022年の3Dアニメ映画「DCがんばれ!スーパーペット」で子猫のウィスカーズの吹き替えが、堀越の声優としての初現場になった。 2023年は京都・南座での吉例顔見世興行に父と弟・市川新之助と共に出演。舞踊家としても早くから経験を積んできた彼女だが、感情を声にのせる表現も体得しつつある。 ■AIと共存する未来に希望も 急速に人間の領域に進出していくAIを、潜在的に脅威に感じている現代人は少なくないかもしれない。 だが堀越は、未来について「車のナビは結構言葉を話すので、もし将来私が自動車免許を取ったら何でも教えてほしい! たぶん分からないことが多いので、もっともっといろんなことをナビがしゃべってくれたら便利だなと思います」とAIとの知的な交流に興味を見せている。 人とAIはどのような共存が可能なのだろうか。未来に思いをはせたくなる1作であるし、この作品を見て今こそ考えてみてほしい。 映画「ザ・クリエイター/創造者」は、ディズニープラスのスターで配信中。 ◆文=大宮高史