化石燃料(1月14日)
2023年は世界中で異常気象が頻発した。我が国も全国的に平年を大きく上回った暑い夏だった。気候変動が現実のものとして受け止められつつある中、昨年12月にアラブ首長国連邦で開催された国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)では、参加各国がエネルギー源の転換を進める成果文書に合意した。世界の気温上昇を1・5℃の目標未満に抑えるべく、化石燃料からの転換とし2030年までに再生可能エネルギーの容量を3倍にすることが強く求められている。CO2排出削減の観点から見れば化石燃料と再生可能エネルギーが互いに対極にあるように見える内容だ。 「化石燃料」と呼ばれる燃料は主として石炭、石油、天然ガスである。これらは地球上での生命誕生の早い時期からの植物の残骸やプランクトンなど生物の死骸が堆積し、地下でのバクテリアの活動および高温、高圧の状態で長い時間をかけて変化してできたと考えられている。「化石」と言われる所[ゆ]以[えん]である。炭素が主成分で燃やすことができ、その熱で水を蒸気にしてタービンを回し発電するのが火力発電である。その際CO2を発生させ、これが地球温暖化の主な原因と考えられている。
一方、代表的な再生可能エネルギーとしては太陽光、風力、水力、バイオマス、地熱などが挙げられる。太陽光発電は一般にソーラーパネルと呼ばれる半導体を使った機器で太陽の光を直接電力に変換する。光ではなく太陽熱を利用して蒸気を発生させ発電する方式もある。風力発電は、大気中の風の持つ運動エネルギーを、風車を通じて電力に変換する。風は空気の移動だが、これには太陽が大気を暖めることにより生じる気圧差が関係している。水力発電も太陽光が大気と海水を暖め生み出された水蒸気が雨や雪となり、山々を通じて流れる水を利用して発電する。バイオマスは植物が太陽光と水、CO2を光合成によって有機物に変えたものを燃焼させるなどして火力発電と同様に電気を得る。これらは結局太陽から地球に到達するエネルギーを直接間接に利用して電力に変換していると言える。地熱は少し異なる。地球が形成された時期から地球内部で発生し蓄えられた熱が地表近くに伝わり温泉や地熱発電として利用されている。
化石燃料が植物や生物の死骸がもとであるならばそれらを育んだ太陽光がそもそもの起源となる。つまり化石燃料も再生可能エネルギーも共通して地球に降り注ぐ太陽光を使っていることになる。共通の起源ではあるが、化石燃料は途方もない長い時間をかけて貯金のように蓄えられた。膨大な量があり、エネルギーとして使いやすい。使いやすいがゆえに人間は日々、それを貯[た]めた年月よりはるかに短い期間で使い切ってしまう速さで使っている。一方の再生可能エネルギーは、世界中でその日その日に稼いだお金を使おうとするようなものだ。置き換えは簡単ではない。 (中岩勝 産業技術総合研究所 名誉リサーチャー)