村上春樹、小澤征爾さんとアメフト観戦した思い出「ルールをよく知らなかった僕に、手取り足取り教えてくれました」
作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。4月29日(月・祝)15時00分~16時50分は、特別番組「村上RADIO特別編~小澤征爾さんの遺した音楽を追って」をオンエア。 今年2月に逝去した世界的指揮者小澤征爾さんと親交が深かった村上さんが、小澤を偲んで、自宅から持参したレコードをかけながら、良き音楽を求め続けた小澤の足跡を辿りました。 この記事では、NFLチーム・ニューイングランド・ペイトリオッツの熱心なファンだッという小澤さんとアメリカン・フットボールを観戦した思い出を語ったパートを紹介します。
アメリカで暮らしているとき、征爾さんに「アメリカン・フットボールの試合を観に行こうよ」と誘われたことがあります。そのとき僕はアメリカン・フットボールのルールをよく知らなかったので、そう言うと「ルールはおれが説明してあげるからさ、大丈夫だよ。楽しいから行こうよ」と言われて、それで2人で一緒に試合を観に行きました。でもアメフトのルールってものすごくややこしいんですよね。そんなに簡単に理解できるものだろうかと危惧していたんだけど、征爾さんはなにしろ説明がうまくて、試合を観ながら「これはこう、今のはこういうこと」と細かく手取り足取り教えてくれます。その説明が的確で要を得ている。そして親切です。だから最初のクォーターが終わる頃には、だいたいのことが僕にも理解できていました。 「そうか、この人はオーケストラの練習とかも、きっとこういうふうにやって、みんなに自分の意思を伝えているんだろうな」とそのとき思いました。説明がとにかく親切でわかりやすいんです。そういうのも指揮者にとっての大事な才能のひとつだったんでしょうね。 征爾さんとは何度か一緒にアメフトの試合を観戦しました。征爾さんは長くボストンで暮らしていたから、ニューイングランド・ペイトリオッツの熱心なファンでした。アメフトの試合を観るたびに征爾さんのことをふと思い出します。 さて、小澤征爾さんが僕らに遺してくれた音楽の数々、これまでのところいかがでしたか? 後半はより新しい録音が中心になります。 番組では他にも、2人の対話集『小澤征爾さんと、音楽について話をする』の取材のために録音された会話の一部を特別公開する場面もありました。 (TOKYO FM「村上RADIO特別編~小澤征爾さんの遺した音楽を追って」2024年4月29日(月・祝)放送より)