「保守派の重鎮」判事が急逝 政治問題化する米最高裁の後任指名問題
任命には米議会上院の承認が必要だが……
スカリア氏の死去で判事に欠員が出た最高裁ですが、審理等はこれまで通り継続されます。しかし、9人から8人に減ったことにより可否同数によって判決を出せない場合は、地方裁判所や控訴裁判所といった下級裁判所(連邦最高裁の下に設置された裁判所で、州裁判所とは異なる)での判決が維持される形になります。 後任の指名はオバマ大統領によっていつでも行えますが、実際の任命には米議会上院による承認が必要で、上院の院内勢力は共和党の54に対し、民主党は44となっており(残りの2は無所属)、共和党が多数を占めています。このため、リベラル派判事の任命を阻止したい共和党上院議員による、「引き延ばし」が行われる公算が強まっています。
オバマ大統領は3月16日、連邦控訴裁判所のメリック・ガーランド判事を指名しました。ガーランド氏の名前はスカリア氏が死去した直後から多くのメディアに本命として取りざたされていました。中道派のガーランド氏を支持する共和党のベテラン議員も少なくなく、オバマ大統領としてはこのままガーランド氏を就任させたい構えですが、ガーランド氏の就任を阻止すべきとの声が野党共和党からは噴出しています。 米議会上院における共和党議員の代表者でもあるミッチ・マコーネル院内総務は「次の大統領が決まるまで、後任指名はすべきではない」とコメントし、オバマ大統領による後任指名を早くも牽制しています。アメリカの歴史上で最も長期にわたって最高裁判事に欠員が出た期間は27か月。南北戦争が始まる前の19世紀中頃の話です。最高裁の判事が9名に設定された1869年以降では、ニクソン政権時の1969年から1970年にかけての391日が最長記録となっています。 指名候補者が国民からの一定の支持を得ているにもかかわらず、共和党が多数を占める米議会上院で承認拒否が長引いた場合、大統領選挙と同じ時期に行われる上院の改選(34議席が対象となっています)で有権者の怒りを買った共和党議員が敗北するシナリオも考えられます。今回の大統領選挙では、ワシントンの「政治ゲーム」に対するフラストレーションがサンダースやトランプといった候補を躍進させる要因になっていますが、判事の指名をめぐる駆け引きにも有権者の厳しい視線は向けられています。 (ジャーナリスト・仲野博文)