ニュージーランドで先住民マオリの権利擁護する大規模デモ、9日間で首都の議事堂に到着
ニュージーランドで19日、先住民マオリの権利を擁護するデモが行われ、4万人以上が集まった。抗議に参加した人たちは、19世紀にイギリス王室とマオリの間で交わされた条約を再解釈する法案に反対した。 この日の抗議は、11日に始まり、ニュージーランド全国を回った9日間にわたるヒコイ(平和的な抗議)の最終日だった。参加者はマオリの旗の色を身に着け、首都ウェリントンの議会議事堂前に集まった。 問題となっている「条約原則法案」は、保守連立政権の一角を占める少数政党「ACT(アクト)」が提出したもの。 この法案は、ニュージーランドにおける民族関係の基本文書とされる1840年のワイタンギ条約の原則を再解釈し、法的に定義すべきだと主張している。 ACTのデイヴィッド・シーモア党首は、この条約の中心的な価値観は、長い年月を経て団結ではなく人種間の分裂を招いてきたと述べている。 自身もマオリの先祖を持つシーモア氏はBBCの取材に対し、「私の条約原則法案では、私の先祖の一部のように1000年前にこの国に来た人だろうと、あるいは今朝オークランド国際空港に降り立ってニュージーランド人としての旅路を歩み始めたばかりの人だろうと、私も、ほかのみんなも、同じように同じ基本的な権利と尊厳を持つという内容だ」と説明した。 しかしこの法案は激しい反対に遭い、ニュージーランド史上最大規模の抗議デモ行進につながった。 ワイタンギ条約違反の疑惑を調査するため1975年に設置された「ワイタンギ条約委員会」は、この法案について、「意図的にマオリとの協議を排除したもので、パートナーシップの原則、王室の誠実義務、マオリの権利と利益を積極的に保護する王室の義務に違反している」と指摘している。 また、この法案の原則はワイタンギ条約を誤って解釈しており、これが「マオリに重大な偏見をもたらした」とも述べている。 19日の行進は、マオリのナ・ワイ・ホノ・イ・テ・ポ・パキ女王が先導。数千人がその後に続く形で、「ハチの巣(Beehive)」と呼ばれる議会議事堂周辺に集まった。 議会では法案審議が進んでいたが、クリストファー・ラクソン首相は、ACTと連立政権を組んでいるにも関わらず、この法案は法律として成立しないだろうと発言している。 ラクソン首相は地元紙ニュージーランド・ヘラルドに対し、「国民党としての立場は変わらない。我々は2回目の審議以降はこの法案を支持しないので、法律として成立しないだろう」と述べた。 「184年間の議論と協議を、たった一筆で書き直せるとは思っていない」 議会では14日、この法案について最初の審議が行われたが、野党のハナ=ラウィティ・カレアリキ・マイピ=クラーク下院議員(22)が、マオリの伝統舞踊「ハカ」で抗議し、進行が一時中断した。 ハカを踊りながら法案を破り捨てたマイピ=クラーク議員や、それに続いてハカに参加したマオリ議員や傍聴者の動画は、ソーシャルメディアなどで広く拡散された。 この日の審議は30分の休憩を挟んで最初の投票が行われ、連立政権に参加する全政党が賛成し、可決された。マイピ=クラーク議員は議場から退場させられた。 しかし、首相率いる国民党が支持しない意向を示しているため、この法案が2回目の審議を通過する可能性は低いという。 条約原則法案は、ラクソン首相が率いる中道右派政権による、マオリに影響を与える一連の施策が実施された後に提出された。 これには、ジャシンダ・アーダーン前首相の労働党政権が健康格差是正のために設立したマオリ健康局の閉鎖や、政府機関の正式名称でマオリ語よりも英語を優先するといった内容が含まれる。 最新の国勢調査によると、ニュージーランドの人口のおよそ18%が自分をマオリだと認識しているが、健康状態や世帯収入、教育水準、犯罪率、死亡率などの指標で、国民全体の平均と比べて不利な状態にある人が多い。平均余命にも7年の差がある。 (英語記事 Thousands flock to NZ capital in huge Māori protests/ Maori haka in NZ parliament to protest at bill to reinterpret founding treaty)
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