外信コラム 「庶民の足」地下鉄さえ党派対立の火種に 米政治の現実
通勤に利用している米首都ワシントンの地下鉄が先月末、約12%の値上げに踏み切った。運賃の全面改定は7年ぶりだそうだが、深夜帯や週末以外の運賃を高くする実質的な値上げが昨年も行われたばかり。私の利用区間だと、この1年ほどで約25%も高くなった。 運営会社によれば、昨年末時点でのバス事業を含む赤字は約7億5千万ドル(約1200億円)に上る。新型コロナウイルス禍で減った利用者数が回復していないことが主因だが、無賃乗車の増加やそのための対策が経営を圧迫していることは、以前にもこのコラムで紹介した通りだ。 このままではサービスを維持できず、運行本数の大幅削減や一部の駅閉鎖、職員の大量解雇なども現実味を帯びる。そう警告する運営会社は、ワシントン(コロンビア特別区)当局と、地下鉄で結ばれているメリーランド、バージニア両州に追加の財政支援を要請。特別区とメリーランド州はこれに応じた。 ところが、バージニア州のヤンキン知事(共和党)は支援を拒み、地下鉄の沿線地域を支持基盤とする民主党の州議員団と激しく対立した。結局、今年5月に成立した州予算に盛り込まれた支援額は、当初案より1割ほど少なくなった。 庶民の「足」さえも党派対立の火種になる。米政治の現実である。(大内清)