「X-MEN」やアカデミー賞受賞作などにも出演!カメレオン俳優、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズが鬼才たちに愛される理由
リュック・ベッソン監督の4年ぶりとなる新作『DOGMAN ドッグマン』(公開中)。犬たちだけが家族であり友人である男の、冷酷な社会との格闘を描いたこのバイオレンス・アクションで、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズが主演を務める。彼は『ニトラム/NITRAM』(21)で第74回カンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞した34歳の実力派アクターだ。日本では一部の映画ファンが知る程度で、一般的な知名度は低いが、注目すべき俳優であることは間違いない。本稿では、そんなジョーンズの魅力について語ってみよう。 【写真を見る】『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』で口から超音波を発し、空も飛ぶバンシーを演じたことがブレイクのきっかけに ■『X-MEN』、『アンチヴァイラル』を経て鬼才監督たちに起用され続ける 1989年に米テキサスで生まれたジョーンズは、17歳の時にアカデミー賞受賞作『ノーカントリー』(07)の小さな役で俳優デビュー。注目され始めたのは『ラスト・エクソシズム』(10)あたりからで、マーベルコミック原作の人気シリーズの一編『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(11)でミュータント、バンシーを演じたことにより多くの観客の目に留まり、ブランドン・クローネンバーグ監督の怪作『アンチヴァイラル』(12)では初の主演を務めた。以後も『ゲット・アウト』(17)、『スリー・ビルボード』(17)といった話題作に出演。先述の『ニトラム/NITRAM』での高い評価により、世界的にも名を轟かせた。 このざっくりとしたフィルモグラフィからもわかるように、ジョーンズの出演作はメジャーな大作からインディーズのアート系映画まで多岐にわたる。上述の『X-MEN~』や『スリー・ビルボード』に加え、ゾンビコメディ『デッド・ドント・ダイ』(19)、実録戦争ドラマ『アウトポスト』(20)など、出演ジャンルも様々だ。デビッド・フィンチャー、マシュー・ボーン、ニール・ジョーダン、ローランド・エメリッヒ、ジム・ジャームッシュといった名だたる鬼才たちに好んで起用されている点も見逃せない。 ■様々なタイプの作品で異なるキャラクターに変身してしまう 最も注目したいのは、ジョーンズが作品ごとにまったく違う顔を見せること。『アンチヴァイラル』と『ニトラム』という2本の主演作だけを見ても、それは明らかだ。前者では近未来のウイルスブローカーに扮しているが、オールバックの髪型でスーツを纏い、鋭い目つきで、いかにもやり手といった感じ。インテリジェンスとカリスマ性と同時に、危機に追い込まれていく切迫感を体現して見せた。一方、後者では、知的障害を持つ実在の無差別殺人犯を演じている。体は大人だが子どものような性格で、愚鈍にも見える男の暴力衝動を表現しきった。 ほかの出演作も同様だ。『X-MEN~』で空飛ぶスーパーヒーローを演じたと思ったら、『ビザンチウム』(12)では白血病に冒された病弱な青年役に。『ストーンウォール』(15)ではゲイの青年を繊細に演じる一方で、『ゲット・アウト』では少々粗暴な中産階級の青年に扮し、『デッド・ドント・ダイ』ではホラーショップのオタクな店員になりきった。このように、どの作品でもまったく違うキャラクターに変身してしまうのがジョーンズの強み。作品によっては、「ジョーンズはどこに出ていた?」と考えてしまう人もいるだろう。 ■“犬使い”の男の複雑な人間性を完璧に体現 さて、注目の新作『DOGMAN ドッグマン』。主人公のダグラス(ジョーンズ)は、幼い頃に父親から手ひどい虐待を受け、犬小屋に放り込まれた挙句、脚が不自由になり車椅子生活を強いられる身となった孤独な男だ。犬と深いレベルで交流する術を身につけた彼は、野犬の保護センターで働きながら、週に一度ドラァグクイーンとしてショーパブのステージに立ちつつ、困っている人のために自身の特殊なスキルを発揮。運命に翻弄されつつ、クライマックスでは犯罪組織と一大バトルを演じることになる。 ドラァグクイーンのメイクをしているせいもあるが、筆者は恥ずかしながら、ダグラスを演じているのがジョーンズであると認識するまでに時間がかかってしまった。この映画内だけでも、彼は多彩な表情を見せる。脚が不自由であるがゆえに他者から同情以外の感情を向けられない孤独。シェイクスピアをソラで暗唱し、会話の相手には当意即妙に切り返す知性。信仰やそれに対する疑問、性別に囚われない自由、そして社会に対する怒り。ジョーンズの演技からにじみ出るそれらの内面は、“犬使い”となった男の複雑な人間性を強く印象付けるに違いない。 ■次回作でもリュック・ベッソンとのタッグが決定 再びベッソン監督と組んで有名なドラキュラの物語を作るというジョーンズが、今後も目の離せない存在となるのは間違いない。なお、彼は10代の頃からミュージシャンとしても活動しており、ギターやドラムなどの楽器をこなし、これまでに3枚のアルバムを発表。2024年には新作をリリースする予定なので、興味のある方はチェックしてみてほしい。 文/有馬楽